自民総裁選告示、活発な外交・安全保障論議を求めた産経・読売など
◆具体的な政策提示を
産経「日本の進路を示す論戦を」。読売「危機乗り越える戦略を論じよ」。日経「損得勘定ではなく政策で選ぶ総裁選に」。本紙「国家像鮮明にして覚悟示せ」。朝日「政権総括議論を深めよ」。毎日「安倍政治の総括が不十分」。
持病の悪化で辞任する安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選が8日に告示された。新しい総裁は14日に投開票される国会議員票(394票)と都道府県連各3票の地方票(141票)を合わせた535票の獲得票数によって決まり、事実上の首相を選ぶ選挙ともなる。
立候補した石破茂元幹事長、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長は早速、立会演説会や共同記者会見で政見を語り、各紙は昨日、一斉に社説や主張を掲げた。冒頭はその見出しである。
見出しが示す通り産経、読売、日経、本紙の4紙は3候補が日本のこれからの進(針)路について具体的に語り、政策論争することを求めた。「3候補が当たり障りのない話に終始していては時間の無駄だ」「なぜ自分が政権を担うべきなのか。時局に対する問題意識と政策をしっかりと説く候補が現れれば内外で評価が高まり、党の活力も増すだろう」(産経)、「感染症がもたらす危機をどう克服し、新たな国家像を描くか。経済と社会の再生に向けて、日本が進むべき道を明示しなければならない」(読売)というのだ。
具体的な政策の大局を求めるのは日経も同様で「知りたいのは、この国をどの方角に導いていくのかだ」と主張。具体的な政策で、石破氏が防災省の新設、菅氏はデジタル庁、岸田氏がデータ庁の必要に言及しつつも「3候補は憲法改正、外交・安全保障、コロナ対策についても語ったが、いずれも公約の詳しい中身が国民にわかりやすく伝わったとは言い難い」と現時点での厳しい評価を突き付けた。
◆転機迎えた国際情勢
この点では、中国の覇権志向の動向を前に「東西冷戦終結以来、およそ30年ぶりの国際情勢の大転換が始まっている」と指摘する産経も「日本は、防衛力の充実と日米同盟の強化を進め、対中融和政策から転換すべきだが、3候補とも外交安全保障をめぐるグランドデザインを示していない」「日本の目指す国際秩序についてもっと語らなくてはだめだ」と、より活発な論戦の展開を求めた。読売もまた「国際情勢が不透明感を増す中で、外交や安全保障政策の論議が深まらないのは残念だ」と主張。特に本命だが地味な印象を拭えない「菅氏の外交手腕は未知数である」とずばり言い「日米同盟の強化やアジア外交の将来展望について、大局的に論じてもらいたい」とハッパを掛けたのは期待の裏返しでもある。まったく同感だ。
本紙は「とりあえず安倍路線を継承し政治空白を避けるとか、来年の総裁選を狙うといった思いを抱いているようではだめだ。/新総裁には、理想と覚悟と具体策をもって国難に対峙(たいじ)する資質が求められる」と注文を付けた。
◆後ろ向きな朝日・毎日
これらに対して朝日と毎日は、まず7年8カ月の「安倍1強」政権の功罪の総括を求め「その先の展望を描く」(朝日)と言うのだ。特にこの1年は「行き詰まりが明らかだった。そこにコロナ対策の迷走が追い打ちをかけた」と指摘。この際、「改めるべき点は改める」ために「この総裁選で、政権総括の議論を深めることが不可欠」だと主張する。
だが、こうした議論も必要だとしても、国の針路や外交・安全保障など安定した政治を行う大局の議論に比べて優先順位は低い。何より、朝日のもっともらしい主張にはこうした視点が欠落している。見方が極めて後ろ向きなのだ。朝日が「1強」を強調する安倍政権に対する国民の評価は、朝日自身の世論調査(4日付)でも不測が言われるコロナ禍対応や「モリ・カケ」問題などを織り込んだ上で、なお71%もの国民が肯定的な評価を支持しているのだから、何をか言わんやである。
毎日も「初日の論戦を聞く限り、安倍政権の総括をめぐる議論は不十分だ」と強調する。社説は最後を「どんな国造りを目指すのか、中長期の展望を示すべきだ」と取って付けたように締めているが、社論中に安全保障など大局議論の言及はない。締まらない論調である。
(堀本和博)