オムニバス形式で「菅総理」を特集した新潮、「宣戦布告」した文春
◆早期解散・総選挙も
安倍首相の辞意表明、自民党総裁選突入を受けて、週刊誌が騒がしい。告示を前にすでに「勝負あった」状態で、菅義偉官房長官一人に焦点が当たっている。ほとんどがそれ前提での誌面作りだ。こうなると読者は「先」のことを知りたがる。菅総裁の自民党人事、新内閣の顔触れだ。しかし、その話題は締め切り時点には間に合わなかった。最低限、幹事長と官房長官を当てられたら大手柄だっただろうに。
オムニバス形式にしたのが週刊新潮(9月10日号)。「『菅義偉』総理への道」を9本の記事で特集した。7年8カ月、政府の報道官としてメディアの前で会見してきた菅長官だが、特定新聞社の「社会部記者」とのやりとりや「令和おじさん」のイメージが強く、人となりはよく分かっていなかった。
冒頭の経歴を述べた記事では、秋田から上京し、段ボール工場で働きながら、法政大学に入学。卒業後、いったんは電気設備会社に就職するものの政治の世界に進みたいと、法大OBの中村梅吉元法相の秘書となる。横浜市議を経て、衆院選に挑み代議士バッジを付けた「叩き上げの人生」が駆け足でまとめられている。
また菅氏の後援者「横浜のドン」こと港湾荷役業「藤木企業」会長の藤木幸夫氏をつかまえてインタビューしており、菅氏が「総理」に決まったように上機嫌で答えている様子から、逆に菅氏がどう藤木氏と付き合ってきたかを彷彿とさせる。
どちらかと言えば菅氏は派手なパフォーマンスをするわけでもなく、並みいる国会議員の中では目立たない存在だ。しかし「ここぞという時に自らの意思を貫いて『勝負』をかけ、這い上がって」きたという。今回もその素顔を現した格好だ。
総選挙の話題も出てきている。政界関係者の間で出回っている「政治日程」を同誌は紹介した。「下村カレンダー」と言われているそうだが、党の選対委員長である下村博文元文科相が「作らせた」ものらしい。「9月29日解散、10月25日投開票」とある。
理由の一つに衆院任期の来年10月では、その直前に都議選があり、与党公明党の支持母体である創価学会が「難色を示している」といういつもの説明が付いている。だからその前にやってしまおうというわけだ。一宗教団体の都合で国政選挙日程が左右されるという解説が繰り返される。そのことに週刊誌は何とも感じないのだろうか。
◆「居抜き」政府と予想
安倍政治の特長である外交・安全保障をはじめとしてコロナ対策などほとんどの政策を菅氏は引き継ぐとみられている。その「居抜き」政府になるとの予想は週刊新潮も週刊文春(9月10日号)もしている。
特に文春は「安倍政権の骨格だった側近軍団はそのまま引き継がれる可能性が高い」と「官邸関係者」の言葉を伝える。側近軍団とは「杉田和博官房副長官、和泉洋人首相補佐官、今井尚哉首相秘書官、北村滋国家安全保障局長の四人」である。名前に見覚えがあるのは、同誌がスキャンダルなどで取り上げてきた「安倍側近」だからだ。これまで同誌が追及してきた「観光利権疑惑」やIR(統合型リゾート)なども“引き継ぐ”格好となり、菅政権への「宣戦布告」とみていい。
ただ、これに関連して引っ張り出されている政府観光局の特別顧問を務めるデービッド・アトキンソン氏は少し気の毒だ。英国人でゴールドマンサックスを経て、現在「国宝や重要文化財の補修を手掛ける『小西美術工藝社』の会長兼社長を務める」同氏はかねがね観光振興を唱えてきた。彼が特定の政権や政治家に付いているわけではない。日本国を思ってのことで、この記事で言及されるのには違和感がある。
◆蚊帳の外の野党新党
それにしても、野党の合流新党に関する話題がほとんどない。野党の現状が見て取れる。永田町では完全に「脇役」いや「役」すらもらえない存在だ。少しは週刊誌も構ってやってはどうだろうか。
(岩崎 哲)