「道半ば」アベノミクス批判するも主因たる増税に触れぬ朝毎の無責任

◆消費増税がブレーキ

 安倍晋三首相が先月28日、病気を理由に辞意を表明。今月半ばには新しい首相が誕生する。

 安倍首相の経済政策アベノミクスは、目的の1丁目1番地だったデフレ脱却を果たせぬまま終わることになる。

 アベノミクスについて、これまでに社説で論評したのは朝日と毎日だけで、保守系紙からはまだない。左派系紙の方が批判的に論評しやすいということか。

 2紙の見出しは、朝日30日付「『道半ば』で行き詰まり」、毎日31日付「重くのしかかる負の遺産」で、毎日は通常2本立ての枠に1本だけの大社説である。

 毎日のそれはとても辛辣(しんらつ)で、実を結ばずに散る「あだ花」のように終わる、と形容し、「成果が乏しいまま、財政・金融政策のアクセルを踏み続けた結果、残ったのは借金の山である」と批判した。

 しかし、これには大きな誤りがある。アベノミクスはアクセルを踏み続けたのではなく、大きなブレーキも踏んでいる。消費税増税である。

 実質GDP(国内総生産)成長率の推移を見ると、アベノミクスが実質的に始まる前年の2012年度の0・8%から、13年度2・6%、14年度マイナス0・4%、15年度1・3%、16年度0・9%、17年度1・9%、18年度0・3%、19年度0・0%である。

 14年度にマイナスに落ち込んだのは、4月に消費税率を5%から8%に引き上げる増税を実施したからである。

 同紙も認めるように、「滑り出しは上々だった」。大胆な金融緩和と積極的な財政出動により株高・円安が進行し、景気回復が始まったのである。

 「だが勢いは続かなかった。成長率は年平均1%程度と低いまま、今から2年近く前に後退局面に入った。政府が触れ回った『戦後最長の景気回復』も幻に終わった」と同紙は記す。

◆増税実施迫った両紙

 だが、待ってほしい。勢いを落とさせた消費税増税だが、この増税の必要性を説き実施を強く主張したのは、毎日も含む大手紙であり、これには頬かむりである。

 同紙は、「首相は消費増税を2回実施した」とその事実は認めるが、「とはいえ先送りを繰り返したうえ、手厚い景気対策も行い、逆に借金を増やした」と批判を重ねる。

 首相が15年10月に実施予定の消費税率10%への増税を2度も先送りしたのは、14年に実施した増税の経済への悪影響が想定以上に大きかったことを憂慮し、景気の落ち込みによる所得税や法人税の減収を懸念したからである。

 2度先送りしたことで、17年度には1・9%成長まで回復したが、先送りしていなかったら、どんな経済状況になっていたか。

 経済はさらに落ち込み、税収も落ち込んで不足分を補うために国債を発行する(毎日流に言えば、借金を増やす)か増税するか、その繰り返しとなろう。まさにデフレ・スパイラルの様相で、同紙が批判する「重くのしかかる負の遺産」以上の、さらに深刻な事態になったであろう。

◆米中貿易摩擦も影響

 国内要因だけでもそうした懸念があるのに、これに海外要因も加わる。現実にアベノミクスと同時に始まった景気回復は、米中貿易摩擦の激化を主因に18年10月から後退局面に入り、18年度の成長率は0・3%に低下。19年度は10月の消費税増税の影響も加わって0・0%、20年度はコロナ禍で大幅なマイナス成長が見込まれる状況である。

 朝日も毎日と同様である。当初は「企業業績が回復。雇用も好転し、物価もいったんは上昇基調に乗ったかに見えた」「だが、ならしてみれば成果は限られる。19年度までの経済成長率は年平均で実質1%、……」とし、その要因としての増税には触れない。

 触れたのは「予定を2度後ろ倒しして財政再建を遅らせたうえ、増税後に景気が腰折れした」と自説に都合のいい使い方で、自らが増税を支持していたことに責任は感じないのであろうか。

(床井明男)