都知事選で細川氏の「脱原発」に飛びついた朝日、毎日のご都合主義
◆都政社説で扱い無し
これこそ典型的なご都合主義だ。「脱原発」を前面に出して細川護煕(もりひろ)元総理が小泉純一郎元総理の支援を受け東京都知事選への立候補を表明すると、朝日と毎日はそれに飛びつくように15日付社説で「首都で原発を問う意義」(朝日)「原発も大きな争点だ」(毎日)と、にわかに脱原発を都知事選の一大争点に据えた。
ご都合主義と言うのは、猪瀬直樹前知事の辞任騒動では一度も脱原発を都政の政策課題として取り上げなかったからだ。昨年12月の両紙社説は猪瀬氏の進退を問い、辞任後は「政治と利権の深い闇」(朝日20日付)「これで幕引きにするな」(毎日21日付)とするだけだった。
今年に入ると年初に両紙は東京にまつわる社説を掲げた。毎日は4日付「首都・東京の未来 もう『集中』はいらない」、朝日は5日付「大都市の危機 見かけの成長を超えて」。いずれも通常の2本立てではなく、これ一本の“大型社説”で、東京五輪を目指す首都の都市像に論及したが、脱原発のダの字もない。
毎日はカネやモノを東京に集中させる発想を時代錯誤とし、超高齢化社会を見据え「成熟した社会や分権を進めるシンボル」としての首都像を示し、朝日も高齢化問題を最大課題に据え、「今後、アジアの大都市が次々に超高齢化に直面する。トップランナーとして、新しい思考で問題の解決モデルをみつける。そんな夢にかけてみたい」と述べた。
いずれも東京五輪よりも高齢化対策に比重を置いており、脱原発やエネルギー、電力に関する話はまったくない。
さらに毎日は9日付社説「東京都知事選 政党の存在感どこに」で、「住民の直接投票で首長が選ばれる以上、大都市圏などで政党や組織よりも候補の人気や発信力が物を言う傾向を必ずしも否定はしない。だが人口1329万人を擁し、2020年に東京五輪を控える首都の知事は日本の顔でもある。政党が総力を挙げて取り組むのは当然だ」と、政党の鈍い動きを批判。
その中で「防災、超高齢化への対応を中心に首都・東京の課題は極めて多い。…都政の担い手を懸けた論争を本格化してほしい」と政党の候補者選びにハッパを掛けた。東京五輪、防災、超高齢化がキーワードで、ここにも脱原発や電力問題は登場しない。
◆佐川引っ込めた毎日
ところが、「細川・小泉劇場」が脱原発のシングルイシュー(単一争点)を掲げると、両紙はこれに飛びつくように前傾の社説を掲げた。だから、どう見てもご都合主義なのだ。脱原発となると、とたんに防災や高齢化問題が消える。健忘症も甚だしい。
毎日の編集幹部の山田孝男氏(元政治部長)は20日付コラム欄「風知草」(毎週月曜掲載)で、「『原発ゼロ』は数ある論点の一つではない。明日の東京のありようを決める大論点である」と、ついには大論点にまで格上げさせた。
もっとも山田氏は反原発の原理主義者のような人物で、このコラムでも「(原発ゼロを)根幹と考える人は社会とライフスタイルの変革をめざす。これを枝葉と見る人は現状維持をめざす。それだけの話である」と、小泉流の単純化論法を引き写しで書く。
先週(13日付)の「風知草」では、細川氏の出馬の条件として「首相辞任の原因となった佐川急便からの借入金(1億円)未返済疑惑が晴れぬままだ。前知事は『徳洲会』からの5000万円無利子借り入れの説明がつかずに辞任した。元首相の説明が要る」としていた。この話も今週のコラムから消えた。
ちなみに昨年の猪瀬辞任劇で政治とカネを問題視した毎日は17日付夕刊「特集ワイド」で、鈴木琢磨編集委員が細川氏にインタビューし、佐川急便問題についてこんなやりとりをしている。
「どう釈明されるつもりで。『もちろん会見でも語りますが、当時の国会議事録の内容を含め、ホームページなどでじっくり読んでいただきたいのです』」。
◆説明にならぬ細川氏
鈴木氏は「その説明が都民の理解を得られるかがカギになりそうだ」としているが、当の細川氏のホームページをネットで探しても見つからないし、会見は二度も延期した。
これを毎日と朝日は不問に付すつもりか。とすれば、どれもこれもご都合主義だ。「真実の追求」はどこに?
(増 記代司)