イスラエル・UAE国交は平和をもたらさないと警告する米誌

◆中東の分断を固定化

 イスラエルがアラブ首長国連邦(UAE)との国交樹立で合意、対立していたアラブ諸国との関係改善に期待が懸かっている。脱石油を模索するアラブ諸国にとって経済的な恩恵をもたらすとともに、政治的安定がさらなる地域の発展に貢献するとみられるからだ。

 仲介した米国、さらには中東各国、欧州でも、中東の安定化につながると高く評価されているが、一方で中東和平の要である「パレスチナ和平」を置き去りにするものでもある。合意は、パレスチナ自治政府にとっては、同志であるはずのアラブによる「裏切り」(アッバス・パレスチナ自治政府議長)と映る。占領地の合併をちらつかせるイスラエルの優位で進められるパレスチナとの和平の不透明感はいっそう強まった。

 一方、国内で政治的に厳しい立場に立たされているトランプ米大統領、イスラエルのネタニヤフ首相にとって合意は、外交での実績をアピールする絶好の材料だ。

 ところが、米誌「フォーリン・アフェアーズ」は、「イスラエル・UAE合意は平和をもたらさず、リビアの戦争を長引かせる」とその副作用を指摘、警鐘を鳴らしている。

 同誌は、「(合意は)二つの競合する勢力への分断を固定化」すると指摘する。「エジプト、ヨルダン、モロッコ、UAE、サウジアラビアからなる伝統主義、王制支持、反ムスリム同胞団ブロックにイスラエルが統合される」一方で、「トルコ、イラン、カタールが主導する反乱ブロック」との対立はいっそう強まらざるを得ないというのだ。

◆リビア内戦長期化か

 その上で同誌は二つのブロックの固定化で、「(イエメン、リビア、シリアで)進行中の地域内の戦争は長期化する」と主張した。

 この3カ国で進む内戦は長期化する中で、対立する各勢力を外国勢力が政治、経済、軍事力で支援する代理戦争と化している。その「断層線」は、同誌が指摘する「二つのブロック」とほぼ一致する。中でも強い影響力を行使し得るのは、米露、サウジアラビアだが、その中で、UAEも一定の影響力を行使してきた。

 同誌は、「UAEは(国交樹立合意によって)、ネタニヤフ、トランプ両氏に外交実績を与えたが、これは明らかに、地政学的収穫と引き換えだった」と指摘、合意によってUAEの中東での影響力はさらに増したと指摘する。

 それは特にリビアで顕著になるとみられている。

 リビアでは、国連主導で樹立した暫定政府「国民合意政府(GNA)」と元国軍将校ハリファ・ハフタル氏率いるリビア国民軍(LNA)の間の戦闘が激化している。

 同胞団に近いとされるGNAをカタール、トルコが支援する一方で、LNAをエジプト、ロシア、UAEなどが支援している。このところロシア、トルコによる軍事力による介入が強まっており、情勢はいっそう混迷を増している。

◆影響力を増すUAE

 「トランプ氏と(大統領上級顧問の)クシュナー氏は、(合意が)メディアで大々的に取り上げられたという点で、UAE指導部に大きな借りをつくったことになる。ホワイトハウスはもう、リビアでUAEを非難することはない」、さらには「トランプ氏とクシュナー氏は、国内での勝利と引き換えにUAEにリビア・ファイルを渡してしまったようだ」と、米国の国内事情が働いた可能性を指摘するとともに、したたかなUAEの外交にも言及した。

 「リビアでUAEは今後も、原油生産を妨害し、リビア経済を破壊し続け、エジプト、ロシアの介入を支援し続ける」とみられ、UAEの影響力が増すことでリビア情勢の悪化は避けられないと同誌は指摘しており、国交樹立が地域の安定化に資するかどうか、疑問符が付けられた格好だ。

(本田隆文)