脱炭素社会の実現へ海上風力発電など再エネ推進を訴える東洋経済
◆官民協議会立ち上げ
「脱炭素社会」への移行が叫ばれて久しい。二酸化炭素(CO2)の排出量削減は今や世界的な共通課題で日本も避けて通ることのできない実現目標だ。脱炭素化の動きをリードしているのは欧州だが、ここにきて日本も重い腰を上げたようである。政府は今年7月に発電効率が低くCO2を多く排出する旧式の石炭火力発電所の設備を休廃止する方針を打ち出した。その一方で経済産業省と国土交通省は同月17日に洋上風力発電の産業競争力強化に向けた官民協議会を立ち上げ、年内には「洋上風力産業ビジョン」を公表するとしている。
そうした中で週刊東洋経済(8月1日号)が、「脱炭素社会」をテーマに特集を組んだ。同号の見出しは「脱炭素 待ったなし」。リードに次のような文言が続く。「自然災害の頻度は桁違いに高まり、干ばつや大洪水が全世界に及ぶ。そうした破局的な事態を回避するには、石油や石炭など化石燃料に依存したわれわれの経済活動や消費の中身を抜本的に見直す必要がある」とした上で、「コロナ禍により、石油や石炭、天然ガスの需要は軒並み落ち込んでいる。だが、再エネだけは拡大を続けると国際エネルギー機関は予想する。…脱炭素の潮流を理解し、自らを変革できた企業だけが生き残る」と訴える。
脱炭素エネルギーと言えば、風力や地熱などの自然エネルギーや天然ガス由来の水素が注目されるが、中でも洋上風力への期待が集まっているという。
◆内外企業が建設計画
そこで東洋経済は現在、政府が推し進める洋上風力の海域について紹介する一方で、その経済波及効果についても説明する。2030年の「世界の洋上風力の導入量は18年に比べ約10倍に拡大する。関連メーカーにとっては膨大なビジネス機会になる」と説く。
確かに、四方を海に囲まれた日本にとって脱炭素社会構築が必須となれば洋上風力への期待は大きくなる。
例えば、北海道には現在、石狩湾沖の洋上に130万㌔㍗規模の風力発電を建設する計画がある。再生可能エネルギー企業「インフラックス」が30年末の稼働を目指すという。また、デンマーク系の企業も同湾沖に100万㌔㍗の洋上風力を計画しており、これが実現すれば合わせて200万㌔㍗を優に超える。この規模は現在、稼働が中断している北海道電力泊原発と同程度のもの。
この他、道内では道南の桧山沖で電源開発が30年の運転開始を目指して70万㌔㍗以上の風力発電の計画を打ち出し、地元首長や漁協と協議が進展した。北海道は18年9月に胆振東部地震を経験し、電力供給の要であった北電厚真火力発電所が破損し、全戸数が停電に見舞われるブラックアウトが起きた。現在も原子力による電力の安定供給ができない現状を考えると、環境アセスメントや地元漁業者への説明など越えなければならない幾つかの壁はあるが、洋上での風力発電は魅力的なものに映る。
◆原子力政策に警鐘も
ちなみに同誌で経団連の中西宏明会長が原子力発電の現状について次のように語っている。「原子力は再稼働に必要な安全対策投資が膨大に膨れ上がっており、再稼働がうまく進んでいない。…この先10年もしたら(膨大な未稼働設備を抱え込み、そのことが)電力会社の経営そのものをおかしくしてしまうのではないかと危惧している。それは日本の産業の基礎体力をむしばむことになる」と政府の現在の原子力政策に警鐘を鳴らす。
15年に政府が決定した「長期エネルギー需給見通し」では、30年時点の電力供給を原子力が20~22%、再生可能エネルギーで22~24%で賄うとしている。しかし、このままの状況が続けば原子力に頼ることはできず、洋上風力など再生エネルギーの比率を上げざるを得ないが、今後、具体的なシナリオをどう描くかに日本の将来が懸かっている。
(湯朝 肇)