香港議会選延期、日本と国際社会に中国への外交的圧力を求めた朝日
◆風雲急を告げる情勢
香港情勢が中国の暴走で風雲急を告げている。
悪名高い「香港国家安全維持法(国安法)」が中国の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で採択され施行された。これにより香港で、中国本土と同様に反体制活動などを厳しく取り締まることになり、言論統制や民主化を求める野党勢力への弾圧が一層進むことが危惧されたが、その通りの様相となってきた。
国安法の施行後、香港独立の主張などをしただけで関係者が逮捕される事件が相次いだ。また与党が支持されていないことが明白な中で、9月に予定された香港の立法会(議会)選挙が1年間延期(香港議会議員任期も9月選挙に立候補が認められなかった民主派議員も含め1年延長)された。これに続いて10日には香港警察による、中国に批判的な香港紙「リンゴ日報」創業者の黎智英氏や民主活動家の周庭氏らの一斉逮捕(国安法違反容疑)である(両氏らは11日深夜、保釈。周氏は旅券没収)。民主派弾圧、批判メディアの抑圧などで、中国本土と同様の共産党独裁への長い道のりが始まったのかもしれない。香港に高度な自治を保障する「一国二制度」は、すでに葬られたと言わなければならない。
新聞は刻一刻と変わる香港情勢を伝えているが、論調の方は情勢の急変にテーマが追い付かない。ここでは立法会選挙1年延長についてのウオッチである。
◆各紙一斉に批判展開
「公正な選挙の実施に疑いを抱かせる」「延期を民主派つぶしに利用すべきではない」(毎日社説2日付)。「親中派の敗北を避けるため選挙制度を骨抜きにしたとの批判は免れない」「情勢不利とみれば簡単に枠組みを変えるのであれば公正な選挙は成り立たず」(日経・同9日付)。「香港政府が延期を決めたのは、国安法への反対世論が噴出し、民主派が勝利することを恐れたからではないか」「1年後に選挙が行われるまでに民主派が一掃され、親中派候補一色となる可能性がある」(読売・同4日付)。
香港政府が立法会選1年延期の理由としている「新型コロナウイルスの感染拡大」について額面通りに信じ受け止めている日本の新聞は、どこにもない。一斉に批判を展開したのも当然である。
親中派とされる朝日(社説・4日付)ですら、香港政府発表の理由を「真に受ける市民ばかりではない。/今の状態で選挙をすれば、中国の強権に抵抗する民主派が勢力を伸ばすのではないか。そう警戒した当局が当面の選挙を避けた、との見方も根強い」と妙にバランスを取った論及ながら、当局発表を信じていない。さらに選挙そのものについても、前回から倍増した民主派候補者の立候補資格取り消しなどを挙げ「選挙の公正さはすでに損なわれていた」「民主派つぶしの狙いは明らか」と強く批判しているのだ。
産経(主張・8日付)はもっと明確な主張を掲げた。延期の狙いはずばり「民主派を弱体化させ、根絶やしにすることだ」と読む。さらに2週間しか認められていない延期期間を超法規的措置で1年間にし、同時に民主派12人の立候補を禁止したことを「習近平指導部への忠誠を踏み絵に、民主派を徹底排除し、立法会を親中派で独占させたい思惑は明白だ」と激しく糾弾したのは、もっともである。
◆亡命受け入れを提言
さて、ここから具体的に何を提言し、訴えるのかで論調の真価が問われる。日経は香港と犯罪人引き渡し条約を結ぶ「自由主義諸国が条約の効力停止に動いたのは当然だ」とし、日本が結ぶ「刑事共助協定のあり方などを検討する」議員連盟の動きに注目した。
産経も海外に逃れた民主派活動家らを指名手配した香港当局に対し「英国やカナダ、豪州などが香港との犯罪人引渡条約を停止したのは当然だ」と主張。「政治弾圧が激しさを増す今、民主派の頼みの綱は、国際社会による圧力」だと、国際社会に支援を呼び掛けたのも共感する。
いつもは結論で抽象論になりがちな朝日が今回は具体的だ。「日本を含む国際社会は、香港の自由剥奪(はくだつ)の動きを座視せず、外交的な手を尽くして中国にブレーキをかけさせるべきだ」「香港から逃れる人々の受け入れなど、香港の人権を守るための国際的な対応策を決め、早急に行動する」よう政府などに求めたのには刮目(かつもく)させられた。
(堀本和博)