中国の民主化願う中国系米国人を「危険」と解説した「報道1930」堤氏

◆米政権指南するユ氏

 「自由諸国が共産主義の中国を変えなければ、中国がわれわれを変えるだろう」

 米国のポンペオ国務長官が先月23日に行った演説の肝だ。民主主義と共産主義の共存はあり得ないという認識を打ち出すだけでなく、このままではマルクス・レーニン主義と自国中心主義に支えられた中国共産党の覇権が世界をのみ込んでしまうと警告。中国の共産主義に打ち勝つために自由諸国による新たな「連合」を呼び掛けて、世界に衝撃を与えた。

 このポンペオ演説に強く影響を与えたと言われている一人の中国系米国人がいる。国務省中国政策首席顧問マイルズ・ユ(余茂春)氏。2016年まで「世界日報」の姉妹紙「ワシントン・タイムズ」で、コラム「インサイド・チャイナ」を執筆した経歴を持つ歴史学者だ。

 BS-TBSの報道番組「報道1930」は7月30日、米国の対中政策転換がテーマだった。その中で、焦点を当てたのが「米政権を指南する謎の中国人」、つまりユ氏についてだった。しかし、中国の民主化を願う彼を高く評価する専門家がいるかと思えば、危険視する解説もあって、見方が大きく二つに分かれた。

 事実に即して客観的に評価したのは、ゲスト出演した神田外語大学教授(現代中国論)の興梠一郎氏。ワシントン・タイムズ6月15日付がユ氏へのインタビュー記事を掲載したことに触れた上で、「(中国が)マルクス・レーニン主義国家であるということを忘れてはいけないということを、この人はよく言う」と解説した。

 また、ユ氏がトランプ政権で重用されている理由については、「彼は文化大革命の時代に全体主義国家に絶望した。それで、短波ラジオで、ボイス・オブ・アメリカ(米国の国営放送)を聞いて、レーガン大統領を信奉するようになった。彼は中国を民主化したいのです」と強調した。

◆三段論法で印象操作

 一方、ユ氏の存在を「危険」とみたのがゲストの元防衛相で拓殖大学総長の森本敏氏と、レギュラー・コメンテーターの堤伸輔氏。

 まずは「非常に危険ですね」と語った森本氏。「どこまで(彼を)信じるか、何ですね。米国の対中政策は彼に動かされている。それが分かるから、中国は彼にいろんなルートで接触してくる」。つまり、中国共産党の影響が彼に及ぶ可能性があるのだから、「危険だ」という。だが、具体的な証拠を示さずに「リスクがある」というだけでは説得力がない。深読みのし過ぎだ。

 さらに実証的でも論理的でもなかったのは堤氏。トランプ政権の対中政策は、大統領選挙で不利な状況を変えるためのものだという見方を示した上で、「ワシントン・タイムズは反共産主義をうたい文句にしてきた新聞。正直言って、われわれはこの新聞を読むときには非常に気を付けながら読まなければいけない。その新聞にユ氏は持ち上げられている」と、突っ込み所満載の解説を行った。

 「反共」がなぜ悪いのか。反共の新聞が評価する人物はなぜ「危険」なのか。妙な三段論法を展開するだけで、全く説明がない。堤氏は、視聴者にユ氏という人物を判断する材料を与えず、ただレッテル貼りによる印象操作を行っただけなのである。

◆共産主義の本質学べ

 ユ氏についての評価は、中国でも割れている。最後に興梠氏が解説した。彼は中国の名門・南開大学に合格したことから、母校(高校)は石碑に彼の名前を刻んで称(たた)えた。しかし、今はそれが削られた。つまり「売国奴」というわけだが、その一方で、彼は中国を民主化し、いい国にするために働いていることを分かっている中国人は、彼を「本当の愛国者」と呼ぶ。

 「マルクス・レーニン主義の世界には二強はない。どちらかがどちらかを打ちのめさないといけない。それが階級闘争」(興梠氏)との認識を持つユ氏は、このマルクス・レーニン主義の本質が分かっていなかった米国に、それを教えたのだ。日頃、自由や民主主義が大切だと言いながら、「反共」を危険視する人間は結局、共産主義の本質が分かっていないのだろう。一度、ユ氏の教えを受けた方がいい。

(森田清策)