野党幹部の体たらくぶりを浮き彫りにしたポストの「落選運動」特集
◆38人の議員を名指し
「国民の間にかつてないほど政治へのフラストレーションが高まっている」。こう書き出すのが週刊ポスト(8月14・21日合併号)である。記事のタイトルは「『落選運動2020』を始めよう」だ。特に新型コロナウイルス感染症への取り組みを「支離滅裂」と断じ、「いったい、政治家は何をやっているのか」と“怒り”を露(あら)わにし、その「声」を具体化するのが「落選運動」だとしている。
「落選運動」とは「公職選挙法の対象ではない。だから選挙期間外でも運動できるし、年齢制限もなく、選挙権がない18歳未満でも参加できる。ネット選挙の規制もかからないため、SNSやメールでも運動できます」と「上脇博之・神戸学院大学法科大学院教授」は同誌に語る。
同誌はそのターゲットとして、「安倍首相がお友達人事で起用した無能な大臣、副大臣など」を挙げて、「片っ端から落選運動のターゲットにすることで首相の任命責任を厳しく問い、政権が維持できないように追い込むのだ」と読者を焚(た)き付けている。
その標的にされた議員が「38人」だ。カテゴリー別に見れば、「無策でコロナ禍を拡大させた」「緊急事態の中で私腹を肥やした」「禊(みそぎ)が済んでいないスキャンダル」「忘れてはいけない失言」「次の総理にしてはいけない」「政権交代を阻む野党」の六つである。それぞれには6、7人の具体的な議員名が挙げられている。
野党の体たらくにも「怒り」をぶつけているのを見れば、安倍政権だけをターゲットにして「任命責任」を問うだけの倒閣運動ではないようで、その面は評価できる。国民のフラストレーションは安倍政権よりも、むしろ、その無策、無能っぷりで安倍長期政権を許している野党幹部に向けられている。「政権交代を阻む“最大の障害”」とはよく言ったものだ。
◆10月25日に総選挙?
その「落選運動」は近々“チャンス”を迎えるようだ。同誌は続けて「10・25“GoTo”解散総選挙289小選挙区『完全当落予測』」を載せた。「政治ジャーナリストの野上忠興氏」と同誌取材班による記事だ。
解散総選挙の時期を「10月25日」として、自民党が奇襲を掛けるように見えて、実は「野党側は準備不足どころか、本当は解散を待ち受けている」と分析している。10月25日は麻生太郎副総理兼財務相が安倍首相に持ち掛けている日程で、かつてリーマンショック(2008年)の時、タイミングを逸して野党に転落した苦い経験を持つ当時首相の麻生氏の持論だ。
分析は全選挙区だから、この中には当然「38人」も入っている。落選運動があるなしにかかわらず“不動”もあれば、もはや当選ムリもある。しかし、運動が意味を持つとすれば、既に“死に体”の議員よりも、選挙は盤石だが「議員にしておきたくない」人をターゲットとすべきで、当落予想で「○」が付いていようが、落選運動を仕掛けるべき話だ。
それで不思議なのは、見出しでは「首相とともに退陣を願う」と言いながら、リストの中には「安倍晋三」の名がないことだ。議員まで辞めさせる考えはないのか。
同じく党代表格の野党の面々は落選運動の対象だから、これはこれで面白い。特に岡田克也、前原誠司、菅直人、野田佳彦、枝野幸男、安住淳の各氏が「落選させるべき人」に挙げられているのを見ると、日本の政治で第1野党がいかに責任を果たしていないか、貧弱かを物語っている。同誌の狙いは、だらしない野党政治家を浮き彫りにするところにあったのではないだろうか、と勘繰りたくもなる。
◆「支離滅裂」な編集に
さて、選挙予想では与党は過半数維持が危うくなりそうだとしている。公明党を合わせて「ギリギリで政権を維持できる」か、「接戦区をすべて落とす」と過半数割れもあり得ると見ている。そのカギを握るのが立憲民主党と国民民主党なのだが、ちょっと待て、その指導部こそ「落選させたい」リストに入れられていたはず。同誌の編集もやや「支離滅裂」になってはいないか。
(岩崎 哲)