敵基地攻撃能力を論じ国防の責任を考えさせた「プライムニュース」

◆3氏とも保有を容認

 安保問題をよく取り上げているBSフジLIVEプライムニュースは10日、防衛相経験者3人を集めて、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」配備計画の断念発表の後、議論が活発化している「敵基地攻撃能力」保有を論じた。

 自民党のミサイル防衛検討チーム(座長・小野寺五典元防衛相)が先月30日、初会合を開き、敵基地攻撃能力の保有論議を本格化させたのを受けてのものだった。番組に出演したのは、小野寺氏と中谷元氏、そして民主党政権時代に防衛相を務めた拓殖大学総長の森本敏氏。

 自民党内には、防衛相経験者であっても「イージス・アショアの配備が難しくなったからといって、一足飛びに敵基地攻撃能力の保有を考えるのは論理の飛躍があるのではないか」(岩屋毅前防衛相)と、慎重な意見もある。

 一方、「撃たせないために打撃力は必要」(小野寺氏)、「抑止力としても敵基地を攻撃する能力は必要だ」(中谷氏)と、番組に出演した2人は抑止力としても敵基地攻撃能力は必要と訴えた。森本氏も「日米同盟を基軸にした対中打撃力」を提言するなど、3人は保有について「是」の立場だ。

 推進派と慎重派との意見の違いが出てきているのは、是か非かというよりも議論の積み重ねがあるのか、どうかということの方が大きいのだから、戦後、日本の社会で軍事について真っ正面から議論することを忌避する風潮が続き、議論を深められなかったことの方が問題の本質なのだろう。

 そんなことを考えながら3氏の発言を聞いて思い知らされたのは「自らの領域と主権を守るのはわれわれの責任」(森本氏)という意識が希薄化しているうちに、今頃、敵基地攻撃能力の保有の是非を議論しているようではあまりにも遅いと思われるほど、ミサイル防衛が難しくなっている現実だった。

◆難しいミサイル防衛

 番組で中谷氏が指摘したように、たとえイージス・アショアが配備され、弾道ミサイルを撃ち落とす能力を強化したとしても、一度に10発飛んで来た場合はどうするのか。変則軌道ミサイル、極超音速滑空弾にどう対応するのか、という課題はすでに浮上していた。

 軍事技術の変化だけではない。「米中の新しい冷戦構造が始まり、その根底には価値観、イデオロギーの対立状態がある。ポンペオ氏(米国務長官)が言うような、権威主義対自由主義(の対立)が軍事の面にも出てきている」(森本氏)。もちろん、北朝鮮の脅威も増している。この状況に対応するには、「日本は抑止力を持つのが一番」(中谷氏)ということなのだが、その議論がここにきてやっと本格化するとなれば、それこそが国防についてのわが国の歪(ひず)みを表すものなのだろう。

 「急迫不正の侵害が行われ誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだとは考えられない。他に手段がないと認められる限り誘導弾などの基地をたたくことは法理的には自衛の範囲に含まれ可能」(1956年、当時の鳩山一郎首相の国会答弁)というのが政府見解だ。どこからが先制攻撃になるのか、どこまでが専守防衛の範囲内なのかという論議はあろうが、敵基地攻撃能力を保有することが合憲であることははっきりしている。

◆現実的な論議を期待

 このため、自民党は2009年に、防衛大綱策定に向けて、「策源地攻撃能力」の保有を検討するよう提言して以来、何度か検討を提言している。敵基地を「策源地」、あるいは攻撃能力を「打撃力」と表現しているところにも、軍事をタブー視するメディアや世論への配慮がうかがえるし、政府も自民党の提言を検討することを避けてきたのだ。

 イージス・アショアの配備計画についてはさまざまな問題が指摘されている。それについてはしっかりと検証し、今後に生かすべきだが、計画断念によって「では日本のミサイル防衛をどうするのか」と、政治も国民もメディアも現実に向き合って国防を考えるようになればけがの功名と言える。

(森田清策)