米国分断の危機を強調しつつ中国の暴走に危惧を表明するエコノミスト
◆激しく米大統領糾弾
2018年7月に勃発した米中貿易戦争以来、両国の対立の構図は収まるどころか、一層厳しさを増している。とりわけ、中国を起源とする新型コロナウイルスによる米国の感染拡大が中国への反感を強め、今年5月の中国人民代表大会での香港国家安全法採択は、自由主義の盟主米国として決して容認できないことから、あらゆる側面から中国への追及を際立たせている。
今月14日、米国のポンペオ国務長官は中国の南シナ海の権利主張に対し「完全に不法なものである」と米政府の立場を公式に表明。また15日には、中国IT企業「ファーウェイ」に対して「中国政府の監視網の一翼を担っていると」して従業員へのビザ(査証)発給を制限するとの声明を打ち出すなど、反中国路線を先鋭化させている。
こうした中で週刊エコノミスト(7月7日号)は米中対立に焦点を当てて特集を組んでいる。3月以来、経済誌は毎回のように新型コロナをめぐる特集を続けているが、同号で久しぶりに世界情勢を取り上げた。掲げた見出しは「狂った米国 中国の暴走」。
この中で米国については、感染拡大が続くコロナ禍、白人警察官による黒人男性死亡に抗議したデモが全米に広がったことに対して同誌は、連邦軍まで投入しようとするトランプ大統領を厳しく糾弾。「民主主義を動かす歯車が大きく狂い始めた米国社会は、分断の瀬戸際にある」と述べ、南北戦争時代以来の米国の危機を印象付ける。ただ、これら一連のデモ騒動で米国の民主主義は揺らぐわけではない。米国はこれまで幾度となく乗り越えてきたのも事実なのである。
◆台湾有事の可能性大
一方、見出しにある「中国の暴走」について同誌では、幾人かの有識者が危惧を表明しているが、それには納得がいく。拓殖大学海外事情研究所の川上高司所長は、「最も危険な状況にあるのは台湾である。台湾は米中双方にとって核心的利益に当たり、南シナ海に比べ軍事衝突が起こる可能性は非常に高い」と指摘し、「もし、台湾で米中が衝突すれば、日本は米国の同盟国であり米中紛争に巻き込まれる」と予測する。台湾有事は、決して絵空事ではなく、日本の立場を明確にすると同時に不測の事態に備えておかなければならないということだろう。
また、北海道大学の鈴木一人教授は、「日本の対中戦略は安全保障重視に移っている。従来、日本は中国の巨大市場しか見てこなかったが、中国が米国のライバルとして台頭し、安全保障リスクに対する認識が甘かったと気づいた」とし、さらに「中国に流出しては困る技術がある。…隙を与えるといろいろなところから“手を突っ込んでくる”中国に厳しく対応する姿勢は妥当といえる」と論じ、単なる「反中」に熱狂する状況を避けなければならないとしながらも、中国に対しては毅然(きぜん)とした姿勢を見せることの重要性を訴える。
◆周辺国を脅かす中国
中国は今のところ、米中2極覇権体制を構築し、いずれは「一帯一路」を完成し、米国を凌(しの)いで21世紀の覇権国家を遂げようとしている。しかしながら、「中国では依然として資本移動規制が導入されている。開放された金融資本市場を提供できない限り、(ドルに代わる)基軸通貨の候補にはなり得ない」(根本忠宣・中央大学教授)。また、「経済や軍事力が強大化することと覇権を握ることは同義ではない。…いくら経済が成長したところで、言論が封殺され個人のプライバシーが侵害されるシステムが『正しい』とは少なくとも私は認めることができない」(野口悠紀雄・一橋大学名誉教授)というように、共産主義一党独裁下のままでは中国は覇権国家にはなり得ない。
ただ、それでも中国は強権をもって周辺国を脅かしてくるであろう。そういう意味では日本は中国の動向をしっかりと見抜いていかねばならない。
(湯朝 肇)