コロナ禍絡みで個別テーマに絞った3本の主張を打ち出した産経
◆情報公開の不足批判
中国・武漢から発生した新型コロナウイルス禍との防戦が長期戦となる中で、東京都での感染拡大に懸念が広がっている。13、14日は100人台だったが、9~12日は4日連続で200人を超え、240人を超えて過去最多となった日も出た新事態である。
今、流行の第2波が到来しているのかどうか微妙な段階にあるのだが、こういう時にこそ必要な国や都からの公式情報や専門家の分析コメントなどがなぜか今回は乏しい。引き続き「マスク、手洗い、うがい」励行と、3密(密集、密接、密閉)を避ける新生活の基本原則の徹底は少しも緩めてはならないのに、呼び掛け続けるのにもう飽きたのか。都知事選までは「東京アラート」やら「3密回避」、「新しい日常」などを麗々しく説いていたのに、再選後の小池都知事が急に言葉少なになった感がするのはなぜか。
この間の新聞論調が挙げて情報公開の不足を批判したのは的確である。
例えば、毎日(社説11日付)はまだ不特定多数の人に広がる「市中感染」の状況を否定する都の説明「接待を伴う飲食店で自治体が積極的に検査をしているためだ」に対して、「だが、具体的な感染経路の分析や情報公開が不十分で、とても安心できる状況にはない」と反論し、大きな不安を突き付けた。接待飲食店関連の感染者は約4割だと強調しても、「感染経路不明のケースも4割程度に上る」ことから「感染者の急増につながる可能性がある」「学校や保育所などで、教職員や子どもが感染する例が出てきている」と調査の徹底と拡大防止策の点検を求めた。
情報不足を追及したのは毎日だけではない。読売(同11日付)は「問題なのは、東京都の情報公開が不十分なことである」とずばり指摘。大阪府の発表が「どの地域で、どう感染が広がっているのか一定の目安になり、予防策が取りやすい」ことと比較して、都に個人情報の配慮と「可能な範囲で丁寧に説明すること」を求めた。
他紙も「根拠に基づく対策を示し、人々の理解を得て実行に移すには専門知識に基づく情報発信が不可欠だ」(日経・同14日付)、「リスクを社会全体で正しく認識するには、当局が必要な情報をすみやかに公表し、疑問に丁寧に答えることが不可欠だ」(朝日・同14日付)などと改善を求めたのである。
◆カギ握る保健所拡充
ところで、現下のコロナ禍対策は経済再開と感染対策の両立が重要になる。これまでのような広範囲な休業要請や行動制限ではなく「感染者の出た店のある地区などを周知して一時的に客の流れを変えるといった工夫」(日経・同)が欠かせない。このところの新聞論調も、コロナ絡みの個別テーマに絞った主張に分け、複数回掲載している。
対策でカギを握るのが保健所の拡充だと指摘したのが朝日(同)と産経。朝日はここでも安倍首相批判を文脈にねじ込んでいるのはいただけないが「必要なのは、国と都が連携して、保健所のてこ入れや検査態勢のさらなる拡充に取り組むこと」だとする主張は間違っていない。
「保健所とコロナ」(主張14日付)を見出しに掲げた産経は、野火のように広がる感染症がどこで、どう広がったのかを「把握することが、先手先手で対策を打っていく上で欠かせない。その危機管理の拠点となるのが保健所」として、体制強化を求めた。具体的に第2波ピーク時に対応する「病院で看護師として勤めている保健師の応援や、家庭に入ったり引退したりしている潜在保健師の復職を早急に進めたい。/その対応に最終的な責任を負うのは政府や知事、その他の首長である」と迫るのは有益かつ的確な主張だと評価できよう。
◆世界規模の対策求む
産経は他にも2本の主張を掲げた(読売も3本)。見出し「コロナ再拡大」(主張12日付)では、コロナ禍の現況を「特定の地域や業態に限定されない『市中感染』とみなすべき」だと捉え、政府と東京都に二つの対応策を求めた。重症化リスクの高い高齢者層の感染拡大抑止と地方への波及防止で、「首都圏と圏外の人の往来を一定程度制限すること」などの検討を主張した。
また、もう一つの主張(9日付)では累計1200万人、死者55万人に迫る世界の感染者について、政府に「先進7カ国(G7)の枠組みなどを通じ、世界規模の対策を進める」ことを求めた。その洞察に富む積極的な論調を高く評価したい。
(堀本和博)