「中国の軍拡反対」の“羊頭”を掲げながら「無防備」の“狗肉”を売る朝日

◆口先だけの中国批判

 「羊頭(ようとう)を懸(かか)げて狗肉(くにく)を売る」。店先に良い品を見せておいて悪い品を売る、ごまかしの喩(たと)えだ。中国・後漢の光武帝(紀元1世紀)が下した詔(みことのり)の中に見える語で、続けて「盗跖(とうせき)、孔子語を行う」とある(『中国故事物語』河出書房新書)。

 盗跖とは春秋時代の大泥棒。強盗に押し入るとき、先に入るのは「勇」で、最後に出るのは「義」だなどと大言壮語し、孔子の言葉を悪用した。まさに「看板に偽りあり」。最近、日本共産党は威勢よく中国を批判しているが、これも羊頭狗肉ではないか。

 志位和夫委員長は今年1月の党大会で中国を評価してきた従来の見解を「新しい大国主義・覇権主義の誤りを一層深刻にする中国」と改め、5月に中国が香港の自由を奪う国家安全法の導入を決めると、「人権抑圧強化の動きをただちに中止せよ」と吠(ほ)えた。

 これには産経も共鳴し「『深い憂慮』などという屁(へ)のツッパリにもならぬコメントしか出せない日本政府は、少しは日本共産党の爪のあかを煎じて飲んでみてはどうか」(6月2日付「風を読む」佐々木類・論説副委員長)と持ち上げられた。産経をもってしても志位委員長の中国批判は心地よく響いたようだ。

 だが、党大会で志位委員長は今後の中国に向き合う姿勢についてこう語っている。

 「中国の『脅威』を利用して軍事力増強を図る動きには断固として反対する」

 何のことはない、覇権主義に反対するのは口先だけで、脅威から国民を守る防衛力には断固反対なのだ。まさに羊頭狗肉だ。これでは共産党の中国批判に迂闊(うかつ)に乗っては狗肉どころか、煮え湯を飲まされることになる。

◆防衛力増強には沈黙

 朝日も同類だ。今年5月、中国が全人代で国防費増強を決めると、社説でこう言った(5月23日付『中国の国防費 危うい軍拡いつまで』)。

 「すでに中国軍の膨張ぶりは自衛の範囲を超えている。やっていることは、力を背景に自らに都合のいいように既存の秩序を変えようとする行為にほかならない。このままでは軍拡競争に陥るとの懸念が周辺国のなかに生じるのも当然だ」

 中国の軍拡が「自衛の範囲」を超えているのは「侵略」を企図しているからだろう。とすれば、「軍拡競争」と相対化せず、中国の侵略を阻止する防衛力の増強が必要とはっきり言えばよい。だが、それには沈黙だ。中国の軍拡反対の羊頭を掲げ、実際は無防衛の狗肉を売っているに等しい。

 中国の矛先は宇宙にまで広がっている。宇宙が主戦場と言っても過言ではない。その実態を毎日の「宇宙新時代」(6月25日~7月8日付で4回連載=ネット版に詳しい)がこう報じている。

 「米中露の3カ国は、宇宙空間で他国の衛星へ近づいてはストーカーのようにへばりつく実験を繰り返す」(25日付)、「スター・ウォーズが現実に? 衛星破壊、戦闘領域化する宇宙」(26日付)、「『宇宙の真珠湾攻撃』が中露の能力向上によって現実になりかねない」(27日付)。目を見張る激しさである。

◆宇宙にまで空論拡大

 それでわが国も2018年末に改定した「防衛計画の大綱」で宇宙やサイバーなどへの「能力の強化」を打ち出し、今年5月に自衛隊初の「宇宙作戦隊」を発足させた。だが、朝日5月20日付社説は「(自衛隊が日本の人工衛星を宇宙ごみから守る監視などを行うのは)攻撃する能力にも結びつく」と異を唱え、さらに政府が6月末に安保を重視する「宇宙基本計画」を閣議決定すると、7月4日付社説は「宇宙の利用が拡大し、民の力が問われる時代に、安全保障への貢献が最優先なのか」と噛(か)み付いた。それほど安全がお嫌いらしい。

 ついに朝日は空想的平和主義を宇宙にまで拡大したのである。「平和」や「民」を掲げ、実際は平和を脅かし民の暮らしを破壊させる。見事なまでの羊頭狗肉。これには盗跖もびっくりだろう。

(増 記代司)