アフリカ現地の教育に尽力する稀有な日本人を扱ったNHKBS1

◆首相の訪問が契機に

 NHKBS1で夜10時(月曜日~金曜日)から、世界の時事的な動きに沿って、テーマを立てながら解説する番組「ワールドWAVEトゥナイト」(WWT)がある。

 14日はモザンビークで日本の支援でつくられた私立学校が国の発展に寄与している点を、16日には、日本人社員10人が犠牲になった「アルジェリアの人質事件」から1年をテーマにそれぞれ報道していた。

 海外に進出する日本企業は、アルジェリア事件を契機に、一層、安全対策の強化に取り組んでいる。

 ケニアでは、高圧電流が流れるフェンスを設置し、現地の治安当局に武装警察官を派遣してもらって警備の充実に取り組むインフラ事業受注会社もある。現地人スタッフとの連携も強化している。

 現地の日本大使館の仲介もあって実現にこぎつけた。海外進出企業のアンケート調査では、日本大使館に地元治安当局への橋渡しを要望している企業は実に8割だ。

 しかし、外務省は、全ての企業の対応には手が回らないとして実現したケースはわずかであり、各大使館の裁量に任せている、としている。

 海外での事業活動が、外務省に認知されてサポートを受けるまでになるのは大変だ。

 今回、安倍晋三首相がアフリカを歴訪し、モザンビークにも足を延ばした。

 NHKは、これを契機に、14日のWWTで、モザンビーク人が学べる現地の学校づくりに尽力した日本人女性、宝山晶子さんを取り上げていた。

◆経済追いつかぬ人材

 これまで、日本の外務省の活動は、その国に援助している政府開発援助(ODA)を活用しながら、支援プロジェクトを展開するが、海外に進出している商社とタイアップして行われることが多かった。

 WWTは「モザンビーク 日本が“人財育成”を支援」と題し、豊富な石油、天然ガスの発掘とともに著しく経済が成長し始めたモザンビークで、現地人の育成が追いついていないことを紹介。

 1990年代前半まで15年間続いた内戦により、学校の整備、特に義務教育で追いついていないためだ。

 今回の安倍首相の訪問に、約30の企業や団体が首相に同行。インフラ整備に意欲を燃やしているとする一方、義務教育ではない中学校、高校への進学率は20%にすぎず、現地人が教育を受けて国のリーダーになりにくい実態を伝えていた。

 番組は、こうした状況を変え、将来を担う人材を育成しようと、日本からの支援で運営されている学校があることを紹介。

 中部の都市、ベイラにある私立の中学、高校で、貧困層を中心に540人の男女が学んでいる、という。授業料は、月700円で地域の他の学校の半額。図書室も完備され、生徒が自主的に学べる環境を整えている。

 生徒たちは、インタビューに「図書館には自習室があり、落ち着いて学べる」「教育でこそ、国を変えることができる」という率直な意見を語っていた。

 教師の水準も高く、入学手続きに長い列をつくる光景が放映され、「よい仕事に就くためには、勉強して知識を身に付けることが重要だ」と保護者たちの目も輝いていた。

 この学校の宝山晶子理事長は、国全体の発展のために、一人でも多く、より高いレベルの授業を受けてもらうことが欠かせないとの考えだ。

 「国全体を発展させるためには、モザンビーク人に活躍してもらわないといけない。その国づくりに教育のレベルが必要になってくる」と宝山理事長。

◆卒業生が日本商社に

 学校の卒業生の一人、ビルジリオ・ムアンドさんは半年前に、日本の商社(三井物産)の現地事務所に採用された。取引先の開拓や、省庁との事業の調整など重要な仕事を担当している。

 「日本の商社で働くことで視野が広がりグローバルな考え方ができるようになった」とムアンドさん。現地法人の責任者も、現地の事情に詳しいムアンドさんの役割を評価。有能な現地人社員を採用することが安全性確保にも必要なことなのだろう。

 この民間の支援で設立された私立学校が、ここまで来るには紆余(うよ)曲折があったに違いない。それが十分に報じられなかったのは物足りなかった。

 だが、ODA主導ではない形で、現地人向けの学校を設立し、日本の商社に採用されるほどの人材を輩出するまでになった点に、大きな拍手を送りたいものである。

(山本 彰)