薬効データ改竄告発で真相解明と健全な産学協同を求めた読、経、産

◆製薬会社告発は当然

 のっけから私事で恐縮だが、昨冬から高血圧治療で降圧剤の処方を受けることになった。担当医師との問答は「あのぅ、あの薬じゃないでしょうね?」「大丈夫ですよ。安い方の薬を出しましたからご安心ください」で終わった。

 それで安心してしまい、今飲んでいる薬名が何かも覚えていない。「あの薬」の高血圧治療薬(降圧剤)「ディオバン」(一般名バルサルタン)でなければいい。ディオバンを回避したのは、感情的理由でも経済的理由でもなく、合理的判断からである。

 薬はただ安ければいいのではない。同じ効能なら、高い方の薬を使うことは私腹も痛むし、国家財政(健康保険で)にも余計な負担をかける。しかも薬価が高い理由が、高血圧治療での効能(こちらは他の薬と同じ)のほかに、他の薬より脳卒中や狭心症の発症を抑制する効能があるからとうたった。その根拠となった慈恵医大などの臨床研究のデータがディオバンに有利なように改竄(かいざん)されていた。その上、データ解析にはディオバンの製薬会社社員(当時)が身分を隠して加わっていたのだ。

 データ改竄などでデータに信用がなくなり、脳卒中や狭心症の発症を抑制する効能が、他の降圧剤より優れているのかどうかは言えないとなれば、薬価が高くても納得できる合理的理由は見当たらない。それで、他の薬より高いのなら、それを負担する患者や健康保険などは余分な支出をするわけで、詐欺に遭ったようなものだ。製薬会社を刑事告発するのは当然のことだ。

 厚生労働省はこの9日に、改竄されたデータをもとに研究論文を不正に広告に利用した疑いで、製薬大手のノバルティスファーマ(以下「ノ社」)を薬事法違反(誇大広告)の容疑で刑事告発した。ノ社と元社員はデータ解析に関わったことは認めても、改竄については否定した。これに対して厚労省の調査委員会は、ノ社が「会社として関与していた」ことは指摘しても、改竄した人物を特定できないなど、疑惑の解明にはほど遠く限界がある以上、告発により捜査当局による徹底した真相解明を求める他なかったのである。

◆日経など透明化主張

 この問題で社論を展開したのは読売、日経、産経、小紙と朝日であるが、朝日のそれ(11日付)は、「アルツハイマー病を早く見つける方法の確立をめざす国家プロジェクト『J―ADNI(アドニ)』で疑惑が浮上した」ことをメーンに臨床研究疑惑を論じ、安倍内閣の「成長戦略の土台見直せ」と主張したものだから除外する。

 で、残る4紙はいずれも、まず捜査で問題の真相解明を求め、その上で「健全な産学の関係」づくりを求めた。日経(社説10日付)は「捜査当局には再発防止につながる徹底した真相解明」に期待し、その先に「金銭で臨床研究がゆがめられた疑いが濃い」ことを見据えた。大学の管理責任を問い、「奨学寄附金など産学間の不透明な慣行を排し、研究協力の仕組みを透明化することが必要だ」として臨床研究に監視の仕組みを求めた。

 読売(社説11日付)は肝心の「誰がデータを不正に操作したのか」に、捜査当局による解明を求めた。さらに、根拠のないデータで薬の宣伝をした企業の重い責任を問い、告発対象になっていない大学の責任も追及。大学と企業の連携は必要としつつも「資金提供を受けた企業名の公開を徹底するなど、医学会は研究費の透明化に努め」よとの主張をした。

◆産経の見解は合理的

 ノ社告発に至ったことは「医療倫理にもとり患者と社会の信頼に背く事案」と批判する産経(主張10日付)も「強制力を持つ刑事捜査により真相を徹底解明し、再発防止に結びつけてもらいたい」と、捜査当局に期待を寄せる。明らかにされるべきは「データ改竄が奨学寄付金提供と引き換えに行われたのかどうか、それにノ社が会社ぐるみで関わっていたのかどうか」だと迫るが、企業と大学の癒着関係は批判しても健全な「産学協同」自体は認める。「日本の産業競争力を底上げするには、医療に限らず、さまざまな分野における『産学協同』は欠かせない」と冷静、合理的な見解を示すのである。

 小紙(社説12日付)を含め、4紙の論調は真相の解明を強く求め、一方でデータ改竄の背景のひとつに指摘される企業と大学の癒着問題に対しては、両者の透明性を高めた健全な協力関係を育成していく必要を説く。合理的かつ成熟した論考を展開し、同感である。

(堀本和博)