少数例外をもって「多様化する家族」とタレ流した詐欺まがいの報道

◆「家族観対立」で毎日

 家族のあり方をめぐる論議が今年、本格化しそうだ。毎日9日付は、自民党が不妊治療の技術高度化や「家族観多様化」を背景に、党内のプロジェクトチーム(PT)や法務部会で、第三者が関わる生殖補助医療での出生子や性同一性障害の親と子の立場を定める新法を検討するとしている。

 これは昨年、最高裁が性同一性障害で女性から性別変更した夫の妻が第三者の精子を使って人工授精し出産した子供について、夫を初めて「実父」と認めたからだ。だが、夫に生殖能力はなく、最高裁でも5人の裁判官のうち2人が「実父」に疑問を呈した。

 果たして家族制度をやすやすと変えてよいものか。自民党内にも批判があり、「現行法が想定していない『新たな家族像』の定義には、紆余(うよ)曲折がありそうだ」と、党内リベラル派と保守派の「家族観対立」を毎日は報じている。

 新聞もそうで、むろん毎日はリベラル側だ。記事では何の疑問も抱かずに「多様化する家族」と記述する。何度か本欄で指摘したが、家族は「多様化」(いろいろな様式・様相に分かれること=広辞苑)などしていない。

 離婚は確かに増加して「1人親」も増え、あるいは若者や高齢者の「1人暮らし世帯」も増えた。だが、結婚や親子に関わる「家族」は法律婚の子が約98%、婚外子が約2%との数字が示すように圧倒的多数が伝統的家族だ。「いろいろな様式」はごく少数で、例外的な存在をもって「多様化」とするのは詐欺まがいだ。

◆多様化で読売も矛盾

 にもかかわらず、リベラル新聞は意に介さないで、事実婚を奨励するかのような論調を張る。保守系新聞もそれに流され、必ずしも腰が据わっていない。例えば、読売は6日付1面トップで「体外受精 事実婚でも 日産婦方針 国は助成検討」と報じた。

 日本産科婦人科学会(日産婦)がこれまで「婚姻(結婚)している夫婦」に限っていた不妊治療の対象を事実婚のカップルにも認める方針を固めた。これまで法律婚の夫婦以外の体外受精を推奨できないとしてきたが、昨年12月の改正民法の施行で婚外子の遺産相続の不利益が解消されたので認めるというのだ。

 ここで読売は「事実婚」と書くが、実体はさっぱり分からない。記事には「夫婦を名乗るのを聞けば、それ以上の確認は行わない」としている。とすれば「夫婦を名乗る」のが事実婚なのか。同じ内容の記事が毎日6日付にもあるが、これも「事実婚」だ。日産婦の説明なのか、記者がそう解釈したのか、安易な記述だ。

 そもそも事実婚は「婚」とあるが、実態は同棲だ。法律婚と違って家族を守る義務が法律上生じない。別れれば、それまでだ。体外受精を望む「夫婦」が本当に夫婦なのか、「夫」が第三者(ドナー)の精子提供者の可能性もあり得る。こんな曖昧な判断で、体外受精での子の「利益」が守られるのか、疑問だろう。

 ところが読売は、2面の関連記事で「家族の多様化に対応 出生数増加の期待も」とし、「家族の多様化という国内外の時流に沿った判断だ」と支持する。「少子化に悩む日本で、出生数の増加に結びつく可能性もある」ともし、夫婦別姓賛成論者の少子化ジャーナリスト白河桃子氏のコメントを掲載する。それには「日本は先進国であるのに、婚外子の割合が少ないなど、家族のあり方に関して考え方が狭い。日産婦の方針転換は妥当」とあり、記事はこう結ぶ。

 「民法改正を受けたものとはいえ、体外受精の対象拡大によって、多様な家族の形が受け入れられ、定着するかどうか、日本の社会が試されている」。記者が「多様な家族の形が受け入れられ、定着するか」と書くのは、現在は受け入れられておらず、定着していないと認識するからだろう。それならば、なぜ「家族の多様化という国内外の時流」と書くのか、矛盾している。

◆事実婚の定義は曖昧

 また記事には、厚生労働省は日産婦の方針が変更されれば、不妊治療の公費助成の対象の見直しを検討するとしているが、後追いの朝日7日付は同省が「事実婚への補助は検討していない。検討するなら専門家による議論が必要」と否定している。

 いずれにしても「事実婚」なる曖昧な定義で、ありもしない「家族多様化」とするのは誤謬(ごびゅう)報道である。

(増 記代司)