「靖国参拝」の動機探った文春、米国内反応を綴るニューズウィーク

◆米政権の文化理解は

 安倍晋三首相の靖国神社参拝は、「オウンゴール」(豪紙)だとか、「お粗末な大誤算」(米誌)などと批判されているが、当の首相は「世界中からの批判」(韓国紙)で今後の参拝を控えるかと思いきや、さらに参拝することにも含みを持たせている。その強い思いはどこから来ているのだろうか。

 週刊文春(1月16日号)が「安倍靖国参拝全内幕」の記事でその背景を説明している。それによると、首相は「今回は行くしかない」「約束なんだ」と「長年の親友」に語っていたという。

 前政権の時に参拝できなかったことを「痛恨の極み」として抱えていた首相としては、今回は何があっても行かなければならない、という強い決意を固めていたわけだ。「総裁選やその後の衆院選で自分に票を入れてくれた人たちへの約束」があったというわけである。

 同誌は「『国民との約束』――。これこそが安倍首相を靖国参拝に踏み切らせた最大の要因だったようだ」と結論付ける。

 だが、靖国参拝が中国、韓国の強い反発を招くであろうことは容易に想像できた。事実、官邸内では参拝に慎重になるように止める意見があったことを同誌は紹介している。それを振り切るほどの強い思いだった、ということなのだが、米国の反応をどこまで読んでいたのか、について、同誌はほとんど説明していない。

 「失望」声明が出された理由について同誌は、バイデン米副大統領訪日直後のクリスマスイブの団欒(だんらん)を「ぶち壊しにされた」からと説明するが、これでは物足りない。

 「失望」声明は皮肉にも米国自身が懸念した「東アジアの関係悪化」に拍車をかけた格好になった。中国は防空識別圏拡大が間違っていなかったと勘違いし、韓国は「告げ口外交」が奏功したと勘違いし、中韓は日米間の「亀裂」を確認して、日本批判、日本外しをさらにヒートアップさせている。

 オバマ政権内のアジア政策担当者には、東アジア3国の歴史的、文化的関係性が理解されているのかどうか、そこまで踏み込んだ分析も欲しいところだ。

◆新潮「いいね!」に釘

 靖国参拝を別の視点で斬って見せるのは週刊新潮(1月16日号)だ。安倍首相のソーシャルネットワークサービス(SNS)利用はよく知られている。特にフェイスブックの「フォロワー」は42万人というから大きな数字だ。

 参拝後、支持する「いいね!」が「8万件」に達した。この数字と支持のコメントを「民意」だと勘違いするほど、安倍首相は軽率ではないだろうが、「いいね!」の多さに興奮気味の官邸関係者について、同誌は「喝采の嵐に気を良くしているというわけだ」と述べる。少なくとも首相周辺は“手ごたえ”を感じているようだ。

 「ネットニュース編集者・中川純一郎氏」は同誌に、「安倍さんが8万件の『いいね!』と礼賛一色のコメントを見て満足しているとすれば、それは大きな間違いです」と釘を刺す。

 そして「『いいね!』の裏に、サイレント・マジョリティがいることを意識しないと、足を掬われることになります」と警告している。いつもながら、同誌らしいアプローチと分析だ。

◆理不尽でも現実認識

 ニューズウィーク日本版(1月14日号)で米戦略国際問題研究所のJ・バークシャー・ミラー太平洋フォーラム研究員が「靖国参拝はお粗末な大誤算」と書いている。ミラー研究員は、同誌12月31日、1月7日号で「安倍あるいは閣僚が靖国神社を参拝する可能性も、常に付きまとうリスクだ」と“予言”していた。

 だから、参拝に衝撃を受けている一人でもある。ミラー氏は「タイミングがまずかった」と言い、「この時期に『個人的な信念』を優先させたのは戦略的誤りだ」と指摘する。そして、何よりも米国内に「安倍に対する失望感が定着してしまうこと」を恐れている。

 そして、米国内には「真珠湾攻撃は9・11テロに次いで米本土に大きな被害をもたらした奇襲攻撃だから、東條英機をあがめるのはウサマ・ビンラディンをあがめるのに等しい」という「あまりにも極端で奇妙な批判」まで存在することを紹介している。

 これは日本の読者は知っておくべきことだ。同記事が紹介する米国内のさまざまな反応は、それがいくら理不尽でも、現にあることを知って、今後の対米関係を考えていく材料とすべきだろう。週刊文春に足りなかった視点と情報である。

(岩崎 哲)