拉致問題解決へ北朝鮮に対する国民の怒りを結集せよと訴えた産経
◆国家による犯罪糾弾
北朝鮮による拉致被害者の横田めぐみさんの父で、被害者救出運動の象徴的存在だった横田滋さんが87歳で亡くなった。中学1年生だっためぐみさんが突然、新潟の自宅近くで行方不明になってからすでに43年。自らの後半生を妻の早紀江さんと共に娘と被害者の救出運動に捧(ささ)げたが、願いはかなわなかった。「拉致問題の残酷さをあらためて思い知」(日経・社説9日付)らされる。
「痛恨の訃報である」(主張7日付)と切り出した産経は、続けて「改めて、拉致誘拐という北朝鮮の国家犯罪に怒りを新たにする」と糾弾する。そして、怒りのぶつける相手は「北朝鮮であり、独裁者である金正恩朝鮮労働党委員長」だと改めて強調したのは、ともすると、問題解決の糸口さえつかめない安倍晋三政権を不甲斐ないとして、見当違いの批判の矢が向きかねないことも予想したからだろう。
例えば、朝日(社説・同)は「原因が北朝鮮の不誠実な態度にあることは言うまでもない」と一応、問題が北朝鮮にあると断りつつも「拉致問題を『最優先課題』に掲げる安倍首相は、『断腸の思い』と語り、改めて解決への努力を約束した。だが、日朝協議は緒にすらついていない」とした上で、微妙なロジックで以下の安倍批判をにじませる。安倍首相は北朝鮮への「『最大限の圧力』を唱えた後、米朝が接近すると、無条件の対話の呼びかけに転じる。そんな態度では北朝鮮を交渉に引き出せない」と、上から目線で説教する始末なのだ。同じ安倍首相の無条件対話の呼び掛けについて、読売(社説9日付)は「圧力重視の路線を転換したのは、家族らの状況を踏まえ、早期に事態を打開したいとの思いからだろう」と理解を示した。朝日とは対照的である。
◆欠かせぬ緻密な戦略
話を怒りに戻すと、産経は北朝鮮に、国民全ての思いを結集させた「怒りを突きつけ、被害者全員の奪還を実現させるのは、日本政府の責務」と訴える。その上で「安倍首相は拉致問題の解決を政権の『最重要、最優先課題である』と繰り返してきた。なんとしても自身の手で、めぐみさんらの救出を果たしてほしい」と強く迫ったのは心に響く訴えである。
今や被害者の救出が急務であることは各紙とも指摘するところである。読売は社説(9日付)冒頭から「北朝鮮による拉致被害者と、その家族は高齢化している。救出を急がなければならない」「膠着(こうちゃく)状態にある拉致問題の交渉を前進させることは急務だ」と訴える。「帰国を待つ家族の高齢化は容赦なく進む。政府が認定する未帰国の被害者12人の親で存命なのは、早紀江さんら2人だけになった」(毎日社説7日付)厳しい現実に直面しているのだ。
「日朝間の拉致問題をとりまく環境は険しさを増している」(日経)中で、どうしていけばいいのかを言及しているのは読売と産経、そして本紙である。
読売は「曲折を経てきた拉致問題を解決するには、トップ同士で会い、決着を図るしか道はあるまい」と見切る。政府に「様々なルートを通じ、北朝鮮に首脳会談を働きかける必要がある。金委員長につながる人脈を探ることが肝要だ」。そのためには「緻密(ちみつ)な戦略が欠かせない」と指摘。本紙(社説・8日付)も「公式・非公式ルートを総動員して金正恩朝鮮労働党委員長に被害者帰国を決断させるよう尽力」を求めた。
緻密な戦略について産経は、次のように交渉の原点に返ることを求めた。「待っていてもチャンスはやってこない。政府は自ら膠着を破る行動を起こすべきだ。拉致の解決なしに北朝鮮は未来を描けないと理解させる」ことが大切だというのである。
◆国民の関心を高めよ
こうした働き掛けの前提に、産経の言う「国民全ての思いとして結集し」た「国民の怒りを」交渉パワーとすることが欠かせない。だが、一方で「近年、拉致問題に対する世論の関心は高いとは言えない」(読売)という指摘もあることは気掛かりだ。指摘は続けて「国際社会や日本国内での広報戦術を立て直す」ことを政府に求めている。
拉致問題の解決は日本人みんなの問題である。国民の関心を高めていく努力は、政府だけでなく新聞自らも絶えず行っていくべき責任があることなのだ。
(堀本和博)