米有人宇宙船打ち上げ成功に日本の長期構想明確化求めた産経、日経
◆9年の空白に終止符
米国の宇宙企業スペースXが開発した有人宇宙船「クルードラゴン」が先月30日、打ち上げに成功した。国際宇宙ステーション(ISS)に向けて民間の有人宇宙船が打ち上げられたのは初めてである。
コロナ禍の中、見事に成功させた今回の打ち上げについて、これまでに社説で論評したのは、産経と日経の2紙のみで寂しい限りである。
2紙の社説見出しを記すと、産経3日付「米の有人宇宙船/『大きな志』を日本も示せ」、日経7日付「有人宇宙輸送で長期戦略を」である。
産経が言う「大きな志」とは、フロリダ州のケネディ宇宙センターで打ち上げを見守ったトランプ大統領が「米国の大きな志の新たな時代が始まった」と宣言したことに引っ掛けた言葉である。
具体的には宇宙開発――今回は特に有人宇宙開発で「日本は何を目指し、どう取り組むのか」ということで、産経はそれを明確にすべきであると訴えた。
米国は2011年のスペースシャトル退役後、ISSへの飛行士輸送はロシアのソユーズ宇宙船に頼ってきたが、クルードラゴンの成功で9年に及ぶ有人宇宙飛行の空白に一応の終止符を打った。
米国はアポロ計画以来となる宇宙飛行士の月面着陸や有人火星探査という明確な構想を掲げるとともに、米国宇宙局(NASA)から民間への大胆な技術移転を進めて資金難を乗り越えたのである。
それに対して、日本は「はやぶさ」などの小惑星探査や、無人輸送機「こうのとり」によるISSへの物資輸送では高く評価されているが、有人宇宙活動に関しては、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が独自にまとめたものはあるが、国としては宇宙船開発の是非を含め長期構想が依然ないままなのである。
前述の産経の主張は尤(もっと)もで、同紙が言うように、「大きな志」を掲げて民間の活力を引き出した米国の手法は大いに学ぶべきであろう。
◆積極論に転じた日経
もう一つの日経だが、これまで有人宇宙開発について同紙は、費用対効果の観点から慎重というより消極的な論調だったが、今回は違った。「有人輸送機は今後の宇宙開発の基盤インフラのひとつだ。日本も民間の力を高め有人機に挑むのか、長期戦略を固める必要がある」と社説冒頭部分でこう主張したのである。
日本にも輸送技術はある。前述の「こうのとり」である。同紙も、こうのとりは何度もISSに物資を運び、不要物を回収して大気圏に再突入する際に機体ごと燃やしてきたとし、「国際的な評価は高い」と認める。
だが、「これを有人機に発展させるのか、させるとしたらどんな工程で進め関連産業をどう育てるのかはあいまいだ。世界の最新技術の動向や宇宙開発の行方を見据えた長期的な戦略に欠ける」と同紙。
日経は、政府が近く改定する宇宙基本計画で、「有人機を宇宙戦略全体のなかでどう位置づけるか明確にすべきだ」と、これまで有人宇宙開発で積極論を展開してきた産経と同様な主張をした。
日経のこの主張も確かに妥当で、「日本にも宇宙ベンチャーが育ちつつあるが、将来への展望がないと思い切った投資は難しい」という指摘は、経済紙らしい視点である。
ただ、同紙のこれまでの有人宇宙慎重論が、政府の宇宙開発戦略本部での議論やその結果としての基本計画や工程表に影響してこなかったかどうかを思うと、積極論とも受け取れる今回の同紙の主張に若干の違和感がないでもない。
尤も、それだけ民間が力を付け、ベンチャーも育ってきたということで米国同様の手法を取り入れよ、ということなのか。
◆論評少ないのは残念
残念なのは、論評する新聞が少なかったことである。特に産経と同様、有人宇宙に積極的な本紙は、最終となる9回目の打ち上げにも成功した「こうのとり」を唯一社説で取り上げ、有人機としての発展型にも言及していたが、今回はなかった。
(床井明男)