トルコとロシアの介入でリビアの「シリア化」を予測するサウジ紙
◆態度明確にせぬ米国
2011年に民主化運動「アラブの春」でカダフィ大佐による独裁支配が崩れ、不安定な情勢が続く北アフリカ・リビア。西に国連主導で樹立された暫定政府「国民合意政府(GNA)」、東にハフタル司令官率いる軍事組織「リビア国民軍(LNA)」が陣取り、さや当てが続いている。
昨年4月に武力衝突が激化、一進一退の攻防が続くが、双方を欧州、中東各国が支援していることが事態を複雑にしている。さらに、カダフィ体制の崩壊に関与した米国は態度を明確にしておらず、不安定化の一因となってきた。
ヨルダンのジャーナリストで政治評論家のウサマ・シャリフ氏はサウジアラビア紙「アラブ・ニュース」への投稿で、「9年に及ぶ内戦下のリビアは、もう一つのシリアへと急速に変わろうとしている。皮肉なことに今回も主要アクターはロシアとトルコだ」と指摘、両国が新たに本格的な介入を開始したことで、今後の情勢が予測しにくくなったと強調した。
GNAはイスラム組織「ムスリム同胞団」に近いとされ、同胞団を支持しているとみられるトルコのエルドアン政権はGNAを支援、一方、同胞団を嫌うエジプト、アラブ首長国連邦(UAE)はLNAを支援という構図となっている。
トルコは1月、GNAへの軍事支援と派兵を決定、一時はGNA優勢が伝えられた。一方のロシアは傭兵を派遣、5月下旬には戦闘機を送り込み、LNAを支援、両国がにらみ合っている。
シャリフ氏は、15年の国連の仲裁が失敗し、ハフタル氏が昨年4月に「リビアの唯一の支配者」と宣言したことで力の空白が生じ、トルコとロシアの介入を招いたとみている。
両国は一時、シリア北部で対立、武力衝突も発生したが、現在は「共同で危機管理を行うことで合意」している。シャリフ氏は「同様のシナリオがリビアで展開されている」と指摘した上で、「米国の戦略の欠如と欧州の分裂による新たな地政学的現実」が生まれていると、欧米抜きの新リビアの出現を予測する。
◆ガス田が懸念材料に
シャリフ氏は懸念材料として、リビアのガス田の存在を指摘した。「トルコとロシアが協力し、リビアに足場を築き、その富から利益を得る可能性をエジプトなどは懸念している」という。この富とは地中海のガス田を指し、「トルコはガス田をめぐってギリシャ、キプロス、エジプトと対立、リビアと海上の境界設定で合意を交わしたことが非難されている」という。トルコのリビア関与の目的は、資源をめぐる「長期的」のものとシャリフ氏は指摘した。
トランプ米大統領は昨年4月にハフタル氏との電話会談で、LNAへの支持を表明した。一方で米政府は、ロシアの5月の派兵を非難する一方で、GNAへの支持を明らかにした。米国のリビアへの対応のちぐはぐ感は否めない。
現状では、ロシアとトルコの衝突の可能性は低い。シャリフ氏は「両国が、地域と国際的なほぼすべてのプレーヤーが支援する停戦を実施する道を見つけ、政治的取り組みを復活させるための合意を模索する」ことが最善の道だと訴える。
◆力不足の国内両勢力
米国のアラブ系ニュースサイト「アル・モニター」は、リビアの「シリア化シナリオ」について、「トルコはリビアでの勢力バランスを変化させたと評価されているが、ロシアの介入によって両国の協力の見通しが開けてきた」と情勢の安定化に期待を表明した。その上で「これは、トルコを支持してきた国々にとっては好ましくない事態だ」と指摘、周辺国の不満が今後、情勢の混乱につながる可能性があるとの見方を明らかにしている。
リビアの東西両勢力にはすでに、自国の未来を決定する力はないというのが、専門家の見方だ。
(本田隆文)