中国の「国家安全法」香港導入の暴挙に、G7に撤回を迫れと訴えた産経

◆「一国二制度」を否定

 香港に中国本土と同様に、反体制活動などを厳しく取り締まる「国家安全法」を導入する方針が先の中国の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)で採択された。悪名高い同法が施行されると香港の言論統制が一段と強まり、民主化を求める野党勢力への一層の弾圧も進む。高度な自治を保障する「一国二制度」が形骸化し、崩壊していく。民主主義社会では当然の政権批判も抗議デモもできなくなる。要するに「一国二制度」を踏みにじり窒息死させる法制である。

 そもそも香港の「一国二制度」は1984年の英中共同声明で保障された国際公約である。中国は英国から返還される97年から50年間は香港に「高度な自治」を約束した。この国際公約を自ら踏みにじる法制を、香港の立法府も、法の支配も構わず頭越しに決定し押し付けることで「一国二制度」の否定の姿勢を露(あらわ)にしたと言えよう。まさに中国共産党による暴挙である。

 自由と民主主義に立脚する欧米や日本で、これを支持する新聞はあるまい。

 各紙が掲げた論調の見出しは次の通りだが、焦点は「一国二制度」を反故(ほご)にする中国への厳しい批判である。

 読売「一国二制度を踏みにじるのか」、産経「一国二制度の国際公約破るな」、日経「香港経済支える『一国二制度』の重大危機」、毎日「政治の自由奪う禁じ手だ」(以上、5月29日付)、朝日「自治を破壊するのか」(27日付)、本紙「香港の民意恐れる中国の暴挙」(28日付)。

◆「香港抑圧法」と批判

 この中で、読売は本土と同様の法制度の導入が「共産党政権に批判的な言動を取り締まる狙いは明白」で「中国の動きは到底容認できない」と鋭く迫った。だが、トランプ米大統領が香港問題で示す、これまでにない強硬姿勢に「中国は米国の出方を見誤ったのではないか」と分析。その上で習近平政権に「香港への締め付けで求心力の回復を図るよりも、米国との衝突を回避し、中国経済の再生に専念することが必要だ」とたしなめても通用しない。あの天安門事件の中国であり、今は覇権まっしぐらに突き進む習政権に対する見方としては相当に楽観的で甘いと言わなければならない。すでに、香港の先行きは大変に厳しく、トランプ氏だけでなく欧米が結束して撤回させるべく圧力をかける他に道を開く選択肢は乏しいのではないだろうか。

 「G7は中国に撤回を迫れ」と主張をしたのは産経である。全人代で採択された香港の新たな法制度などの決定は「一国二制を踏みにじるものだ。『香港抑圧法』であり、断じて容認できない」「民主主義に基づく香港の法治を根底から覆す手法で、許しがたい暴挙だ」と中国を厳しく批判。

 その上で「中国の政治圧力ですでに形骸化している香港の高度な自治は、息の根を止められよう」と現状から香港の深刻な先行きを展望する一方で、「共産党独裁の中国本土と同じような制度を香港に持ち込めば、国際社会は黙ってはいまい」。中国への制裁措置の一つとして「米国が(香港の)優遇措置を見直すのは当然だ」と米国の対応を明確に支持する。

 さらに「国家安全法が制定されればレッセフェール(自由放任主義)とうたわれた国際金融センターとしての香港の機能が失われ」ることに言及。そうなれば、人ごとではなくなる。中国だけでなく、日本も米欧も東南アジアも経済的損失が及ぶと警告し、安倍晋三首相自身が中国に「明確に撤回を求める」こと、「先進7カ国(G7)首脳会議で最優先課題として取り上げる」ことを迫る。断固とした中国批判と、撤回に向けてのG7による圧力の必要を具体的に説いた主張には同感である。

◆突っ込み不足の他紙

 朝日は産経と同じく、中国の国家安全法制を基に香港に導入される新法は「断じて容認できない」と拒絶の啖呵(たんか)はいいが、最後まで反対表明から一歩も出ない社説で内容がない。「憂慮すべき事態だ」とする日経、「政府は中国に率直に懸念を伝え」ることを求めた毎日、「国際社会は対中関係を見直していく必要」を説く本紙の各社説は、香港の直面する深刻な事態に、やや突っ込み不足で物足りなかった。

(堀本和博)