東京一極集中から脱し地方での新しい働き方推奨するエコノミスト
◆成果見えぬ地方創生
安倍政権によって2014年に「まち、ひと、しごと創生総合戦略」いわゆる地方創生戦略が制定された。人口減少による地方の消滅を阻止すべく、地方活性化を促し都市部への人口転出に歯止めをかけようとしたが、今のところ際立った成果が上がっているようには見えない。むしろ、労働人口の減少によって人材不足が生じ、都市部へ人口の流れは止まらない。その証拠に東京圏への転入超過数を見ると18年(14万人)は14年(11万6000人)に比べ24・7%も増加している。
そうした中で、週刊エコノミストは5月5・12日合併号で地方の企画を組んだ。「脱・東京一極集中 地方で働く」と題した特集のリード文には、「テレワークやオンライン会議の導入が進む今、これから『どこに住んで、どのように働くか』をじっくり考えたい。地方での新しい働き方とは」とある。ここで興味深いのは、地方での働き方について「仕事」と「拠点」を軸にマトリックスを使って整理し、事例を紹介していることだ。
具体的な項目としては、「拠点」が「地方のみ」と「都会と地方の2拠点」。仕事については、「都会と同じ」「都会と違う」。そうすると、「地方に移住したが仕事は都会の時と同じ」「移住したが仕事は都会の時と違う」「地方と都会の2拠点を基盤にして同じ仕事をしている」「地方と都会の2拠点を基盤にしているが、違う仕事をしている」の四つのジャンルに分けられ、それぞれの事例を紹介していることだ。
例えば、岩手県花巻市で木材店を営む小友康弘さん(37)は、月の半分は花巻で、3分の1は東京のIT関係の会社で取締役として勤め、残りの6分の1は国内外を飛び回る。木材店は100年を超える老舗だが、12年に先代の父の跡を継いだ。IT企業で培った開発力、営業力を発揮して次々に新企画、新製品を打ち出し黒字化に成功。「しっかり経営すれば林業はもうかるビジネス」と明言する。
一方、東京で証券マンだった石坂大輔さん(39)は14年、長野県山ノ内町の渋温泉に移住した。町内で売りに出されていた老舗の「小石屋旅館」を購入。外国人旅行客向けに展開し、今では地元の温泉旅館組合の仲間と共に街の活性化に一役買っている。
◆第三者が事業を継承
これまで田舎暮らしといえば、都会の喧騒(けんそう)を離れ「ゆったりと暮らす」というイメージだが、若い人にとって地方に移住となれば、やはり「仕事」がなければ生活できないということになる。地方から若者が流出する大きな要因の一つには、「雇用の場」がないということがある。従って、若い人が地元にIターンなり、Uターンして定住しようとする条件の一つとして「雇用の創出」「起業の創造」は欠かせない。
この点について、エコノミストは一つの提言を挙げる。「移住先での仕事として地域にも移住者にも有効なのが既存の事業を継ぐことだ」(藻谷ゆかり巴創業塾主宰)という。「地方経済では特に後継者不足が深刻であり、後継者が見つからずに廃業することが多い。廃業を避ける方法が親族や社員ではない人が継ぐ第三者事業承継である」(同)と語る。新規参入者は既成の概念にとらわれず、新しい発想で物事を展開していく。そこに付加価値とグローバルな視点を加味すれば事業は広がりをもって受け継がれていくというのである。加えて、藻谷氏は、「今回の新型コロナウイルスの感染拡大は若い世代の人生設計に大きく影響する可能性がある」と説く。都市部で感染拡大が起こり、テレワークなど仕事の形態が変わったことで地方と都会との仕事上の距離が縮まったというのである。
◆新しいふるさと創造
地方の田舎には「ゆったり暮らせる」というイメージがある。そうした地方の良さを背景に持ちながら都会と同じような雇用の場が創出されるならば「新しいふるさとの創造」は可能になるはずである。
(湯朝 肇)