放送界に忍び寄る新型コロナ感染に社会的距離取る報道番組の変容
◆報ステ富川アナ感染
新型コロナウイルスは放送・マスコミ界にも重苦しい深刻な影響を与えている。日本でも4月に入ると、ソーシャルディスタンス(社会的距離)など感染への対策は放送スタジオにも及んだ。NHK「日曜討論」やTBS「サンデーモーニング」は5日から、スタジオ出演者の席の間隔を「安全な距離」を取るため広く開けた。
その矢先に、テレビ朝日の看板番組「報道ステーション」のキャスターを務める富川悠太アナウンサー、同番組担当のテレ朝社員2人が感染、40歳代働き盛りで、しかも感染拡大を報道中の大手の放送局内でクラスターが発生する脅威を見せつけた。
テレ朝は12日に富川氏の11日の感染確認を発表。13日の同番組冒頭でも報告した。さらに15日の同番組放送で社員2人の感染を報道し、1人は同番組のチーフプロデューサー、もう一人はフリーアナウンサー赤江珠緒さんの夫であることを明らかにした。TBSラジオは担当番組を持つ赤江アナの感染をホームページに公表した。
19日放送になると「サンデーモーニング」は、主立ったゲスト出演者は遠隔出演となった。スポーツ選手の試合や競技中のミスに「喝」を入れる張本勲氏の名物コーナーも、肝心のスポーツの試合がない。その上、生放送ながら遠隔出演した張本氏と司会の関口宏氏との声の掛け合いが噛み合わない。
それでも、そのうちネット会議のような分割画面で遠隔出演者を寄せ集める放送に変容するかもしれない。
◆サンモニで「戦時だ」
ところで緊急事態宣言が発令されると、同番組ではこれを逆手に取った安倍政権批判が目立っている。
12日放送では、東京都が休業要請リストに挙げた一部に政府側が難色を示したことに関連し、「この政権は有事の緊急事態ということをある種、強調してきて、憲法にも緊急事態の条項が必要だとも言ってきたが、その伝家の宝刀の緊急事態宣言をした後に、業種をめぐって都と国でやり合っているなんて、呑気(のんき)なことをしている場合じゃなく、最初からその辺をすり合わせなかったのか」と、ジャーナリストの青木理氏が批判。
また19日放送では、「(安倍政権は)見えない敵との戦いと言いながら平時の発想と変わらない。これが逐次投入という形で一番重要なポイントの転換点を見失ってしまった。これが感染拡大につながっている」と、遠隔出演した東京都市大学教授の涌井雅之氏が批判した。さらに、スタジオで出演した白鷗大学教授・岡田晴恵氏が一刻も早いアビガン投与の政治的検討を訴えたことについても、涌井氏は「今は平時じゃなくて戦時だ。医療の態勢も野戦病院の考えを持ってくるべきだ。早期に対応することが一番重要だ」と相槌(あいづち)を打った。
つまり、わが国は緊急事態に弱いということだ。ただ、そのための法整備の議論が起きるたびに野党、左傾化したマスコミが反対し、同番組もそのお先棒を担いできた。しかし、新型コロナ感染の現実を前にして、有事、緊急時を強調して政府批判をするなら、どうして前々から非常時、緊急時の法整備をして体制を整えよと言ってこなかったのか。
◆憲法体制から見直せ
同日放送のフジテレビ「日曜報道ザプライム」に遠隔出演した橋下徹氏も、外出自粛・休業要請に伴う給付金を減収など条件付きで30万円とした当初の案は「平時の発想」として批判。緊急事態宣言を政府がする以上、補償もしっかりすべきだと訴えた。一方で、政府や自治体の法的根拠が、新型インフルエンザ特措法であることにも問題ありとの認識を示した。
確かに、非常事態宣言を速やかに発動し、強制措置を取り、補償も速やかな外国に比べ、あくまで自粛要請にとどまり、強制力がなく、言うことを聞かないパチンコ店の名前を公表する程度の策しかない現状を、戦後の憲法体制から掘り下げて考え直すべきであろう。
(窪田伸雄)