中国共産党政権「成果の誇示」のお先棒を担いだ朝日の武漢現地取材
研究所から流出疑惑
新型コロナ禍のウイルスはどこから来たのだろうか。
当初、中国・武漢のシビエ(野生の鳥獣肉)を扱う海鮮市場とされた。新型ウイルスは大概、動物を介して感染するからだ。マレーシアでは養豚業者がコウモリ生息地に養豚場を造った結果、コウモリが持っていたニパウイルスが豚を通じて人に感染、100人以上が死亡したことがある(1998年)。
エイズ(HIVウイルス)はチンパンジー、新種インフルエンザはカモと豚や鶏。2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)はハクビシンやタヌキで、それを売る中国広東省の市場から感染が広がったとされた。
というわけで、武漢の海鮮市場がクローズアップされたわけだが、どうも変だ。シビエが原因なら、武漢だけでなく他都市の市場も危うい。中国では至る所で珍獣の肉を売っているからだ。
だが、中国政府が全国の市場に販売禁止や取り締まり強化を命じた話は聞かない。武漢の海鮮市場の調査を行ったという報道もない。発生源なら徹底的に消毒してもよさそうだが、市場の大規模な消毒作業が始まったのは実に2カ月以上も経った3月3日のことだ(共同3月4日)。
それで別の疑惑が浮上してきた。「武漢ウイルス研究所」からの流出だ。同研究所はアジア最大のウイルス保管施設で1500株以上を保管している。同所からの流出疑惑はスティーブン・モッシャー米人口調査研究所所長が本紙への寄稿文でいち早く指摘していた(3月6日付)。トランプ米大統領は徹底追及すると言明している。
検閲受けずと但し書
その“疑惑”の武漢でロックダウン(都市封鎖)が解除されたのは4月8日のこと。朝日はその日のうちに記者を現地入りさせ、9日付1面で「封鎖2カ月半『心が枯れた』77日ぶり解除」、3面で「『開放』武漢 警戒は続く」と大きく報じた。翌10日付も1面で「仮設病院 闘いの跡」、国際面で「専用の通路 手の消毒5回 試行錯誤」などと2日にわたって現地取材記事を放った。
ところが、両日付の記事末尾に次のような不可解な一文が載っていた。
「朝日新聞は、新型コロナウイルスの感染拡大で過酷な状況を経験した武漢市の実情を報道する意義は大きいと考え、8日の封鎖解除に合わせ記者を派遣しました。市政府が設けた取材機会には当局者が同行しましたが、検閲は受けていません。記者は可能な限り感染予防策を講じ、取材手法にも必要な配慮をしています」
こんな「但(ただ)し書」のある記事は見たことがない。感染予防策を講じ、必要な配慮をするのは当然のことで、いちいち断る話ではない。「市政府が設けた取材機会」「当局者が同行」「検閲を受けていません」という箇所が要点だろう。
これはまるで言い訳のように聞こえる。何の言い訳かというと、当局の尻馬に乗って取材したことだ。10日付の「仮設病院」は「市当局が一部外国メディアに公開した」とあるから、明らかに「市政府が設けた取材機会」だろう。それには「当局者が同行」したに違いない。
海鮮市場など訪ねず
検閲は受けていないというが、そもそも当局(とりわけ独裁政権)が設ける「取材機会」は都合がいい所に決まっている。「一部外国メディア」の一部は朝日の他に存在したのか、ネットで探してみたが、見当たらなかった。まさか朝日だけ?
毎日9日付は武漢の封鎖解除を「習近平指導部は『封じ込め策』の成果を内外に誇示」するとし、「『政治制度の優位性が示された』と強調するが、初動の遅れや情報公開の不備に国内外から批判の声も上がっていた」と記している。
朝日の現地取材はこうした批判点には触れず、海鮮市場やウイルス研究所を訪ねた形跡もない。YOUは何しに武漢へ? 共産党政権の「成果の誇示」のお先棒を担ぎに行っただけの話ではないか。
(増 記代司)