緊急経済対策の現金給付に保守系紙でもスピード感重視を強く注文

◆規模は評価した日経

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は事業規模で108・2兆円の緊急経済対策を閣議決定した。過去最大規模となった今回の対策に、毎日と読売、産経の3紙が通常2本立ての枠に1本のみの大社説で臨むなど各紙がそろって論評を掲載した。

 各紙社説の見出しを並べると以下の通り。8日付毎日「生活危機に応えていない」、日経「家計と企業の支援策を滞りなく迅速に」、9日付読売「早く確実に支援は届くのか/実施の態勢を早急に整えよ」、朝日「不安解消にはほど遠い」、産経「国難克服へもっと速度を/生活困窮者の支援を徹底せよ」、東京「現金給付30万円/仕組みの変更を求める」、15日付本紙「世帯現金給付/必要な人に行き渡るのか」――。

 朝日、毎日、東京のリベラル紙には強い批判ばかりが並んだが、保守系紙の読売、産経、日経でも一部評価の言葉はあるものの、やはり、スピード感のなさを問題視する厳しい論調になった。

 日経が評価したのはまず規模の点で、急速な感染拡大や医療の崩壊を防ぐには外出の自粛や商業施設の休業が避けられないため、「空前の不況に見舞われており、2008年のリーマン・ショック後を上回る経済対策を講じるのは妥当」とした。

 また、治療薬やワクチンの開発、検査・医療体制の強化が重要なのはもちろんだが、日々の生活に困る家計や経営状態が悪化する企業の救済も緊急の課題であるとして、「今回の対策はおおむねバランスのとれた内容になったのではないか」と指摘。読売も「幅広い施策を実施するのは妥当である」と評価した。

◆制度複雑で窓口混乱

 もっとも、評価はこのぐらいで、あとは大社説の読売、産経の小見出しで言えば、「制度があまりに複雑だ」「窓口の混乱をどう防ぐ」「追加対策もためらうな」(以上読売)、「給付の線引きは妥当か」「財政事情にこだわるな」(以上産経)という具合。リベラル系で、同様の大社説の毎日では「遅く不十分な現金給付」「長期戦の備えを万全に」である。

 各紙がスピード感のなさを問題視しているのは、今対策の大きな柱になっている現金給付である。対策では所得が急減した世帯に30万円、また売り上げが大幅に落ち込んだ中小企業に最大200万円、個人事業主には同100万円の現金を給付する。

 政府は必要な財源を盛り込んだ20年度補正予算案を今月中に成立させ、来月にも実施したい考えだが、毎日は「本来は、先月成立した今年度の当初予算で対応すべきだった」「遅すぎると言わざるを得ない」と批判。生活に困っている人たちの手元に届くのは来月以降になってしまい、「これではセーフティーネットの役割を果たせない」とした。

 当初予算での対応ができなかったのには、国会審議で野党が首相の桜問題を過分に取り上げて時間を浪費したこともあり一概に政府批判はできないものの、問題は前述の小見出しの通りである。

 現金給付とりわけ世帯向けのそれは、住民税非課税世帯の収入を基準にしたため、制度が複雑で分かりにくく、また、自己申告制のため必要書類を市区町村に提出する必要があるなど「申告する方もそれを受ける行政側も手間と時間がかかる」(本紙)ものになってしまった。

 しかも、世帯主の収入しか対象にしていないため、共働き家庭で妻の収入がなくなった場合などを考慮しておらず、必要な人に行き渡らない恐れがあるのである。

◆具体策示さぬ大手紙

 これに対し、日経は「申請や審査の手続きをできるだけ効率化すべきだ」とし、他紙も読売「不正防止は大切だが、スピードを重視し、手続きはなるべく簡素にしたい」、朝日「制度をわかりやすく説明したうえで、手厚い申請のサポート態勢を組むべきだ」などと指摘したが、具体策は示さなかった。示したのは東京の世帯一律給付と本紙の国民一人一律10万円である。

(床井明男)