地下鉄サリン事件25年、教訓が生かされていないと警鐘鳴らす産経など
◆危機感皆無の朝毎東
「これからの25年でも、予期しない大変な事態は起こるだろう。それは、新たな形での化学テロかもしれない。そのときに現実的に対応できるだろうか。思考停止を越えて、考え続けようと思う」
さる3月20日に地下鉄サリン事件から25年を迎えた。濱田昌彦・元陸上自衛隊化学学校副校長は産経のオピニオンサイト「iRONNA(いろんな)」でこう語っている。
「事件(テロ)は確実に風化しつつある。消防関係者への講演においても、聴衆の大半が平成生まれということはよくある。サリン事件を知らない、覚えていない世代が、現場で、あるいは一般市民の中で大半を占めるようになった。無理もない。あれから四半世紀が経過しているのである。当時を知る者は、陸上自衛隊でも東京消防庁でも、退官しているか、あるいは逝去されているケースが多い」
それで「(事件の)知見や教訓の伝承が困難になっている」と濱田氏は歎(たん)じる。猛毒の化学剤サリンが東京・霞が関などの地下鉄に散布された同事件では死者13人、負傷者約6300人の未曽有の被害者を出した。まさに予期しない大変な事態だった。
今年は四半世紀の節目の年だが、新聞で化学テロに焦点を当てたのは保守紙のみ。社説では産経19日付、本紙20日付、読売21日付が「無差別テロ対策と再発阻止を」(本紙)と説く。対照的に朝日、毎日、東京、日経は事件すら社説のテーマにしなかった。とりわけ朝毎東の20日付はそろって「森友問題」。これは週刊誌の尻馬に乗った安倍批判。テロへの危機感は皆無だった。まさに思考停止だ。
◆「有事の医療」整備を
注目したいのは産経18日付の高橋清孝・前内閣危機管理監の「教訓生かし『有事の医療』整備を」との提言だ。
「内閣危機管理監となりテロだけでなく南海トラフと首都直下の両地震、東京大洪水、富士山噴火、大規模停電(ブラックアウト)、大規模サイバー攻撃、そして新型インフルエンザなどのパンデミック―などの国家的危機の被害想定を研究し、各省庁にヒアリングした。結果、国全体として想定や対応計画が極めて甘いということが分かった」
米国ではテロ発生時の受け入れ医療機関をあらかじめ決め、搬送先には二次攻撃に備えてテロ対策部隊を配置するなど「事態対処医療」体制を整備している。日本では「最悪を想定し、初動救命から搬送先の医療機関情報の一元化、二次被害防止まで含め、地下鉄サリン事件の教訓はいまだに完全に生かされてはいない」と指摘している。
こうした警鐘に耳を傾けたい。地下鉄サリン事件はNBC(核・生物・化学)テロのCだが、B(生物テロ)もあり得る。例えば、旧ソ連はスベルドロフスク軍需工場で生物兵器用の炭疽(たんそ)菌を培養。1979年に漏出事故を起こし市民64人が死亡したが、生物兵器製造を隠蔽(いんぺい)するため食肉の炭疽菌による食中毒と言い張った(今の中国を想起されよ)。
天然痘はWHO(世界保健機関)が80年に根絶宣言を発表。ウイルスは米アトランタの疾病防御センターと露モスクワの研究所の2カ所に非常・研究用に保存されているが、米国はロシアから国際テロ組織や北朝鮮に流出した疑いを抱く。それで2003年のイラク戦争では米軍兵士に天然痘ワクチンを接種した。
◆首相は迷わず宣言を
自爆テロリストが「スーパースプレッダー」(爆発的にウイルスを飛散させる患者)で侵入する恐れがあるので全米の消防署は生物テロ対策の防護服を備える。それを今、使う。生物テロと新型コロナ禍は紙一重なのだ。左派紙はこんな現実に見向きもしない。
危機管理は「空振りは許されるが、見逃しは許されない」が鉄則。新型コロナ禍が「オーバーシュート(爆発的な感染拡大)ぎりぎりの段階」(小池百合子都知事)なら、安倍首相は迷わず緊急事態宣言を発すべきだ。思考停止の左派紙に従う義理はない。
(増 記代司)