米民主党の「オバマ伝説づくり」の努力放棄を指摘するNW日本版

◆命名運動盛んな米国

 「レーガンやブッシュとは大違い 人気のある大統領だったのに出身地ハワイにはオバマの名を冠した学校や通りがない」

 ニューズウィーク日本版3月10日号「オバマ命名運動が振るわない理由」のタイトルで、その実情を記している。日本に居ては見えてこない米社会の動きだ。

 米国には「命名運動」というムーブメントが存在していて、レーガン空港の命名はこのキャンペーンの成果だ。

 その団体の一つはレーガンに焦点を当てる「『小さな政府』を目指す団体・全米税制改革協議会(ATR)」。主宰者のグローバー・ノークイストは「命名運動は大統領のレガシーを確固たるものにするために重要だ」「少なくとも現代アメリカの指導者で最も名前を冠した場所が多いケネディとマーティン・ルーサー・キングに並ぶことだ(現時点では全米で約150カ所、ケネディとキングは800以上だという)」。「1998年にワシントン・ナショナル空港がレーガンにちなんで改称されたという事実は、第40代大統領が偉人として公的に承認されたことを意味する」というわけだ。

 評者は、20年ほど前に1度、米国に行った時、国際空港の迷路のような空間の巨大さに度肝を抜かれたが、その空港の名前がケネディであり、レーガンであったことで、またまた驚かされた。レーガンと言えば、当時、現役の大統領を退いたばかりだったのに、既にレジェンド化していた…。

 日本では、さしずめ成田空港、羽田空港で、他の空港も、その地域の代表的な公共施設としてたいてい土地の名前を冠している。この違和感に近い驚きは、米国人のアイデンティティーのありどころについての疑問としてずっとあったが、当記事でだいぶ氷解した。

 つまり、米国人の命名運動やまた実際の命名は、4年間なり8年間、その人物を先頭にして、われわれは世界を動かし、改革したのだという米国人のあふれる自負とその記憶の刻印と言えよう。

◆伝統的な事業に異変

 だが、今、米国人のその伝統的事業に異変が起きている。オバマはハワイ生まれの唯一の大統領だが、「大統領退任から3年後の今も、ハワイにはオバマにちなんだ名前の学校や通りも、公園のベンチもない」。もちろん、「オバマが完全に無視されているわけではない。アメリカ全体では、その名を冠した学校は20校前後、道路も20本ある。オバマが移り住んだイリノイ州では、誕生日の8月4日を祝日にしている」。

 それでも他の大統領と比べかなり少ないのは、「オバマの『レガシー』をたたえようとするリベラル派の組織的運動はない」からだ。カリフォルニア州の主要都市・サンノゼでは「2年以上前からアルマデン大通りを第44代大統領(オバマ)にちなんだ名前に変更する住民投票の実施を市当局に働き掛けているが、反応は鈍い。

 オバマ命名キャンペーンの問題の1つは、政治力が弱いことだ。『とても小さな草の根の運動だ』」という。「民主党は後世に語り継がれるオバマ伝説をつくる努力を放棄している」とハリス(ニュースサイト『ポリティコ』の共同創設者)は指摘している。

◆トランプが命名対象

 一方、オバマの命名運動に火が付かないのは、大統領退任後「公の舞台から退いた」レーガンに対し、「オバマは今後まだ数十年、一定の影響力を持ち続ける可能性があり」「オバマは終わっていない」からだという意見がある。

 しかしこの説が当てはまらないケースも出ている。「昨年11月にはトランプが『アメリカ史上最も著名な大統領の1人となるのは間違いない』として、旧国道ルート66の一部区間にその名を冠する法案がオクラホマ州議会に提出された(後に撤回)」のだ。

 今日の民主党とその支持者らの求心力のなさを「命名運動」の現状から明らかにした好企画だ。

(片上晴彦)