新型コロナウイルス報道で読み応えあるアエラと安倍批判ばかりの朝日

◆臨時休校の内幕暴露

 新型コロナウイルスが猛威を振るっている。風評や偏見・差別も出てきている。これらは対象への無知と人間の心の弱さから生じるものだ。正しく知って冷静に対処する。そのためには正しい情報と知識が必要で、こんな時こそ、週刊誌は正しい対処方法を読者に伝え、政府や当局の対策を評価・批判すべきだ。

 同じ社が出している週刊誌が色合いの違う報じ方をしていて興味深い。週刊朝日(3月13日号)とアエラ(同9日号)である。

 週刊朝日は、今回評価が分かれる学校の「臨時休校」措置が出てきた内幕を伝えている。それによると、政府よりも先に北海道知事が休校措置を打ち出したのを見て、安倍首相が官房長官らの制止を振り切って強行した、としている。これはトップ記事の冒頭に紹介されている“内幕”だから、同誌が一番伝えたいエピソードなのだろう。

 内幕の暴露はいかにも週刊誌らしいが、今はその時ではない。この「1~2週間が(感染の)急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際」(アエラ)で、安倍首相が「断腸の思い」で打ち出した決断だ。「感染のピークを遅らせ、医療崩壊を防ぐ」ことが期待されるもので、この事情を鑑みれば、安倍首相があたかも「功を焦って、好評の策に追従した」ように報じるのは軽薄のそしりを免れない。

 この他、官邸の対策が「支離滅裂」だとか、「官邸の指示機能が崩壊した」と安倍批判ばかりを並べているが、こんな情報が“未曽有の危機”に何の役に立つのだろうか。今はどう対処し乗り切っていったらいいかを読者に伝えることを優先すべき時だ。

◆必要な内容を簡潔に

 その点でアエラの編集内容は数段いい。まず新型コロナウイルスの今の時点で分かっていることをまとめている。「感染力強いが8割軽症」の記事では、「感染しても、症状が出るとは限らない」「高齢者、または持病を抱える人でリスクが高い」「(致死率は)SARS(重症急性呼吸器症候群)よりは低い」など簡潔で必要な内容をまとめている。

 そして、今現在、重点的に行っているのが「クラスター(小集団)を一つずつつぶして次への連鎖を断つ」ことだ。記事はこうした政府の対処を分かりやすく伝える。

 では個人としては何をすべきだろうか。「『自分は患者』と考えて」の記事では、「正しい知識をもとに、できることは全部やろう」と呼び掛け、「かからない」よりも「うつさない」に重点を置くべきだと主張する。ちなみにマスクはそのためにすべきものだ。

 そして「感染拡大で医療体制がパンクしてしまうこと」を警戒しつつ、「むしろ感染者や発症者にマスクを回すこと」や「大事なのは感染予防対策をあきらめない」ことなどを強調しており、現在、政府が取っている対策と方向が大筋で間違っていないことを示している。

◆別のリスクにも注意

 「行き過ぎると医療が破綻する」の記事は中でも示唆に富んでいる。キーワードとして「リスクコミュニケーション」を挙げ、「専門家、メディア、国民……。さまざまな立場の人たちが意見を交わして、いま直面しているリスクについて理解を深めていく」という考え方だ。

 その中で「リスクのトレードオフ」はおもしろい観点だ。つまり「感染を心配しすぎても別のリスクが増える」というもので、「場合によってはもともとのリスクより大きくなることもある」と「福島県立医科大学の前田正治・主任教授」は戒める。

 つまり「必要以上にヒトやモノの移動に制限をかければ、経済活動が停滞し、企業の倒産が増える恐れがある。あるいは、差別や偏見の対象となった医療従事者や支援者はそれによって孤立し、ウイルスの感染ではなく、精神的な変調によって追い込まれる可能性がある」というものだ。

 11㌻にわたるアエラの特集には読み応えのある記事が多かった。

(岩崎 哲)