新型肺炎の感染拡大で景気減速、世界株安への対処を訴える各紙社説
◆中国に連携強化迫る
中国を発生源とする新型コロナウイルスによる感染が世界的に拡大し、いまだ終息の兆しが見えない。株式市場は、世界同時株安の様相を呈し、日銀の黒田東彦総裁は「市場への潤沢な資金供給」を表明。米連邦準備制度理事会(FRB)も0・5%の緊急利下げを実施した。
新聞各紙は新型肺炎に関するニュースを連日報道し、論説面でもこのテーマに関する経済的な社説を多方面から取り上げている。
日経でいえば、2月25日付「新型肺炎にG20はどう立ち向かうのか」、26日付「景気減速を警戒した世界株安」、3月3日付「新型コロナ、経済対策は機動的に進めよ」など。東京でも2月28日付「新型肺炎と倒産/中小向けに集中支援を」、3月3日付「新型コロナ/生活支援に全力尽くせ」といった具合である。
政策協調面で気を吐いたのは、2月26日付産経「G20と世界株安/中国は連携強化に責任を」である。
サウジアラビアで22、23日に開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、世界経済の失速回避に向け政策総動員を確認する共同声明を採択したが、「具体性には乏しく、これを見透かすように世界の株式市場は同時安の様相をみせた」(産経)。
G20が足並みをそろえられるかは極めて重要なのに、その中心にいるべき中国は閣僚の派遣を見送った。産経は「国内優先なのはわかるが、これではG20の議論が深まらなかったのも当然」と強調。さらに、「中国は特に、自国経済の悪化が世界に及ぼす影響の甚大さを重く認識すべきだ。(中略)世界に波及しないよう、どんな対策を取るのかを明確に発信する。それが各国の連携を促す前提となる」と厳しく迫った。同感である。
このテーマでは、日経も25日付で、「感染拡大の状況など中国の情報開示も重要だ」と強調した。
各国が一致して財政・金融両面の景気刺激策を取って政策協調の効果を挙げた2008年のリーマン危機と比較して、今回は経済だけの問題でなく、「刻々と状況が変わるなかで、各国の協調はより複雑で難しい」からだ。
しかも、リーマン危機の際は、中国は大型景気対策で世界経済を支える役割を担ったが、「今の中国経済にそれほどの余力はない」(産経)し、「日米欧先進国の金融政策には限界がみえ、財政出動もすべての国に余裕があるわけではない」(日経)。「ならばなおのこと、G20が政策対応で連携する意義は大きい」(産経)のにというわけである。
◆国内対策検討の余地
国内対策では、産経2月28日付「新型肺炎と企業/政策総動員で徹底支援を」や同日付、3月3日付の東京、2日付毎日「新型肺炎の経済的打撃/中小・零細支援を万全に」などと取り上げた。
いずれも訪日客の激減や中国製部品の輸入停滞に伴う国内生産の休止、イベント自粛などで多くの企業、特に中小・零細事業者が苦境にさらされているため、その支援に万全を期すよう訴える。
首相は追加対策で、従業員の解雇を防ぐ雇用調整助成金の特例支給の拡充を挙げたが、この措置だけでは非正規で働く人の支援に不十分との指摘(毎日)や、支給要件のさらなる緩和で年度末の資金繰りを支援することなどが提案(産経)されており、検討の余地があろう。
◆震災時上回る影響も
2月29日付読売が指摘するように、今回は東日本大震災の時のように工場や機械といった設備が壊れたわけでもない。「感染拡大が収束していけば、企業の生産活動や貿易は早期に回復するのではないか」(読売)との見方も確かにできるが、現状は毎日指摘の「終息が全く見えないだけに、専門家は『経済的な影響が震災時より大きくなる可能性がある』と見ている」と覚悟した方がよさそうである。「今は感染拡大の防止が最優先」(毎日)ということである。
(床井明男)