天皇陛下の御即位後初の御還暦の誕生日を慶賀した産経、日経、本紙
◆社論で祝意3紙のみ
本欄(18日付)で増記代司氏が「『消された建国記念日』。そんなフレーズが脳裏に浮かんだ」と嘆息したように11日の建国記念の日は、産経と本紙を除いて社説はもとより、この日を祝う記事が紙面のどこにも見られなかった。読売や朝日、毎日は題字横や欄外の日付横などに「建国記念の日」と記すだけであった。
天皇陛下が60歳の還暦を迎えられた23日の天皇誕生日には、そういうことはなかった。これに先立って行われた御即位後初の記者会見や当日の祝賀行事の記事などが各紙の紙面をそれなりに飾った。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、一般参賀が中止となったことなども報道されたのである。
しかし、この日に社論を掲げて祝賀したのは産経、日経と本紙の3紙だった。平成の30年間に祝日だった12月23日が平日となり、昨年は天皇誕生日がなかった。元号が令和となり、陛下は昨年5月の御即位後初めての誕生日を60歳、還暦で迎えられた。それを記事だけでなく、社論でお祝い申し上げたのが3紙というのは少し残念である。もっとも朝日は、天声人語で「時が時だけになるべく静かに簡素に陛下の60歳をお祝いしたい」とさりげなく祝意を表してはいる。
◆皇室の伝統継がれる
さて祝意を述べた3紙の社論である。
産経は「日本国および国民統合の象徴でいらっしゃる陛下のもとで国民は心を合わせ、令和の時代を築いていきたい」。本紙は「還暦となられ、円熟期を迎えられる陛下とともに、われわれ国民も令和を日本の成熟時代として輝かすために努力していきたい」と、両紙とも陛下と心を合わせて新時代を築いていく希望にあふれている。
その根底にあるのは御即位から約10カ月の間に、両陛下が昭和天皇から上皇陛下へと引き継がれてきた皇室の伝統を大切にされ、国民に寄り添ってこられたことである。昨年12月には台風19号の被災地である宮城県丸森町と福島県本宮市を訪れ、被災者の手を握りながら励まされた。子供をめぐる虐待問題にも心を痛められ「健やかに育っていくことを願ってやみません」(産経)と気遣われた。
こうした陛下の姿に「広く国民のことを思い、寄り添われる姿は、すでに多くの国民の心に刻まれて」(産経)おり、国民も「両陛下への敬愛の情をもってお応えする関係となっているのは、今年の御即位後初の新年一般参賀に、6万8000人もの人びとが訪れたことにも表れている」(本紙)のである。
今年は両陛下の英国ご訪問が予定されており、夏の東京五輪・パラリンピックでは陛下は名誉総裁を務められ、それぞれ開会宣言をされるなど諸外国との親善交流に大きな役割を果たされる。これらについても両紙は、陛下が還暦について「もう還暦ではなく、まだ還暦という思い」と語られたことを「心強い」(産経)、「お務めへの強い意欲と、気力体力の充実がうかがわれるお言葉だ」(本紙)と慶祝した。
その一方で陛下は国民が知る御動静以外にも「数多くの宮中祭祀(さいし)で、日本と国民の安寧や豊穣(ほうじょう)を祈られている。陛下が営まれる大切な祭祀、儀式への理解を深めたい」(産経)、「御即位後に決裁された内閣からの書類は790件に上る」(本紙)などと、その激務を拝察。産経は「天皇と国民が温かい絆で結ばれているのが、日本の国柄だ」「男系継承の大原則を守り」皇位永続が国民の願いだと結んだ。本紙は「皇室を戴(いただ)くことへの感謝の気持ちを新たにしたい」と説いたのである。
◆課題検討促した日経
これに対し日経は祝意を述べる一方で、政府に「これを機に、めまぐるしく変わる社会の中の皇室の役割について」の検討促進を促した。会見で陛下の「公的活動を担う皇族は以前に比べ減少している」などのお言葉から「皇室の現状に関し、お立場が許す範囲で危機感をにじませられてもいる」と指摘。「安定的な皇位継承策や女性宮家の創設などについて本格的な検討」が、もはや先延ばしできない「喫緊の課題」だと政府に迫ったのである。
(堀本和博)