国会論戦やサイバー攻撃記事で論点ずらしの週刊朝日、サンデー毎日
◆勝負の中立性を否定
週刊朝日(2月14日号)の「ワイド特集 緊急事態」で、新型コロナウイルスをめぐる国会論戦を取り上げている。タイトルは「新型コロナウイルスは騒ぎすぎ? 得するのはあの人だけかも」。
1月29日の国会で、立憲民主党の蓮舫議員が感染症関連の質問をしなかったことに対し、自民党の世耕弘成参院幹事長が、ツイッターに「野党の質問が始まって40分経過しましたが、先刻武漢からの飛行機が到着し、目の前に総理や厚労大臣等が列席している。このシチュエーションで感染症について質問をしない感覚に驚いています」と書き込んだ。
記事では「(感染症問題に対しては)冷静な対応が求められるが、政治の世界では危機を利用するかのような動きもある」として、この件を取り上げた。もちろん参院幹事長という重さはあるが、この時の国会論戦では、単に外野の声にすぎず、これだけを引いて、くだんのタイトルを付けるのは無理がある。
続いて「感染パニックの裏で隠ぺい “桜国会”安倍首相の嘘を暴く」の記事で、「新型コロナウイルスの感染が拡大するパニック状況を利用して、逃げ切ろうとする動きも見え隠れする。国民の目をいつまで欺こうとするのだろうか」というのもおかしい。
2月になって、国会で桜を見る会の疑惑追及に明け暮れている場合ではない、と衆院予算委では外交政策、憲法改正などを並行して取り上げ、世論の批判を警戒したのは野党の方だったではないか。国会は与野党決戦の場、行司役は国民で、その優劣に対し軍配を挙げる。だから質疑応答の当事者はことのほか真剣であるし、両者の対決はテレビ中継されている。勝負の中立性を、証拠もなく否定する週刊誌の品位を問いたい。
◆秘密保護法では限界
論点ずらし、ということで言えば、サンデー毎日(2月16日号)の高村薫さんのサンデー時評「サイバー攻撃、政策…検証無視『不実』の時代」もそうだ。三菱電機が中国系ハッカー集団にサイバー攻撃を受けたことが発覚したが、高村さんは「国も企業も不正アクセスを取り締まるための法整備を等閑にしているのはなぜなのか」と自問する。
そして「その答えはたぶん、国会の施政方針演説に通底する。首相は自ら掲げた政策についての合理的な説明をせず、結果の検証も評価もせず、最終的に責任も取らない」。一事が万事、今事件も首相の国政に対する無責任で曖昧な姿勢に端を発している、というのである。
サイバー攻撃という犯罪の底辺はかなり広く、根深いものだ。それに備えるには、ネット対策だけでは不十分で防諜(ぼうちょう)組織が必要だ。秘密保護法が外国のスパイに対処できる範囲は限られており、スパイ網やスパイそのものを摘発できる「スパイ防止法」が必要だ。しかし同法の制定は野党の反対で成っていないのだ。
また高村さんは「不正アクセス禁止法に問える犯罪である」としているが、他人のコンピューターに侵入し、書き込みをしたりする犯罪とはレベルが違う。中国やロシアのサイバー攻撃に対するには、まず敵を知り国民一丸となって防衛意識を強化することだ。
◆日頃の防諜活動重要
「米司法省が過去7年間で摘発した産業スパイ事件の9割に中国が関与していた」(2018年、米上院司法委員会・グラスリー委員長)と言われるように、中国系ハッカーのサイバー攻撃は諜報(ちょうほう)活動の一環だ。今回の事件でも、中国国家のスパイ活動の脅威をうかがうべきだ。
一般に、防衛産業へのサイバー攻撃は、特定の組織や人物に狙いを絞り、まずその周辺の関係者を装ってメールを送り付け、本丸への接近を図るが、そうした関係者リストは国内外に張ったスパイ網を通じ収集しているとみられる。日頃の防諜活動こそ重要だ。
(片上晴彦)