中国当局の新型肺炎対応を時系列でたどり火を吐く正論を展開した読売
◆デマへの警戒を訴え
人口1100万人。東京都と同規模クラスの中国・武漢市で昨年12月初めに発生した新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が続いている。中国本土の死者が今月11日午前0時までに1000人を超え1016人となった。前日からの増加数はこれまで最多の108人に。このうち武漢市のある湖北省が103人と依然として突出する深刻な事態である。感染者は2478人増えて4万2638人となった。
一方、日本国内では集団感染が起きているクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染者は12日朝までに計174人に上り、このうち4人が重症化し、下船して集中治療室などで治療を受けている。また船内で男性検疫官1人の感染も分かるなどした。
なお世界保健機関(WHO)はこの新型肺炎の名称を「COVID―19」と決めた。英単語の「コロナウイルス」と「病気」の短縮形に、感染の発生年を組み合わせたもので、これまでのように発生地の地名などを避けた命名となった。
新聞は今月に入っても、この問題を採り上げ複数回の論調を掲げている。
その論旨の多くはインターネット上を中心に飛び交うデマに対する警戒の呼び掛けである。すでに「武漢からの発熱症状のある旅客が、関西国際空港の検疫検査を振り切って逃げた」とか「東京五輪が中止」などといった悪質な虚偽情報が広がり、ひと騒動を起こしている。
そこで「デマや不正確な情報は、社会の不安をあおり、混乱を招く。/そんな事態を避けるには、公的機関や専門機関による正しい情報のこまめな発信が欠かせない」として政府には「判明した事実を迅速に公表する」ことを求め、国民にも「社会不安が高まる時こそ、情報を冷静に見極めたい」(毎日社説8日付)と呼び掛けた。読売(同)も「正確な情報に基づき、冷静な行動を心がけたい」、日経(同11日付)も「われわれ一人ひとりが冷静な対応をとらないと、社会の混乱に加担することにな」るとそれぞれ訴え、政府には正しい情報の的確かつ丁寧な発信を求めた。
◆言論統制で対応遅延
産経(主張・5日付)はこれらに加えて「デマはまた、往々にしてヘイト(憎悪)表現を呼ぶ。ウイルスは国籍、民族を選ばない。『中国人は帰れ』……(など)といった言説は誤り」だと強調しデマやヘイトの横行を戒めた。いずれも極めて妥当な主張である。
各紙論調の中で刮目(かつもく)させられたのは読売と産経の2回目(11日付)である。
今回の事態への対応で、中国「共産党政権が統治上の過ちを認めるのは異例だ」とした読売は「初期対応に問題があったのは明らかだ」と指弾した。武漢市が原因不明の肺炎患者の増加を公表したのは年末になってから。その前にインターネット交流サイト(SNS)上で異変を公表した地元医師(その後、感染し死亡)を市当局は処分。習近平国家主席の国を挙げた対応の指示は1月20日になってから――などと中国当局の対応を時系列でたどった上で「武漢市を封鎖するという強硬策を講じても、感染拡大の速度には追いつかなかった」と指摘した。すでに手遅れだったわけである。
だから、中国は情報隠蔽(いんぺい)などが国際的な批判を浴びた2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の「教訓が十分生かされたとは言えない」と批判。治療の参考となる具体的な症例の報告が少ないことなどの問題を挙げ、今回浮かび上がったのは「共産党による中央集権体制や言論統制が、非常時の対応の妨げになる」と断罪した。まことに火を吐く正論である。
◆中国発表数字に疑問
一方、産経は武漢市で感染による肺炎が疑われた60代の日本人男性の死亡について疑義を呈した。断片的にしか知らされない情報について「確認の経緯も分からず、情報の混乱は致命的」と批判。死亡邦人が中国本土の「4万人を超える『感染者』に含まれていたかどうかも不明のまま」「同様に、感染の確定前に死亡に至ったケースが相当数あったのではないか」「発表数字の向こう側に、膨大な感染者の実数がある」とそう疑問視する。要するに、冒頭に記述した中国当局発表の感染者数も死亡者数も、実際はもっと多いのではと疑問を突き付けたのだ。発表数字には今後も注視を怠れないのである。
(堀本和博)
訂正 前回の拙稿(1月30日付最終行「(朝日は昨日まで)社説不掲載である。」を「社説未掲載である。」に訂正します。