保守系の産経でも「異性婚」の言葉を使う記者の危うい結婚観

◆同性婚支持に転換?

 神奈川県横浜市が昨年12月から、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認定する「パートナーシップ宣誓制度」をスタートさせた。これに関して、川崎市内に住む筆者は産経新聞1月28日付神奈川版トップ記事を見て首を傾げた。

 記事は「根強い異論はあるものの」としながらも、「同性カップルの間に喜びが広がっている」と制度導入を評価するとともに、「制度が始まったことは、ゴールではなくスタート。ゴールとしては、日本でも結婚の平等を認めてもらい」と、「同性婚」の法制化を求める当事者の声を紹介したのだ。

 同性婚に対する評価は別としても、新聞が当事者の声を紹介する意義はある。しかし、たとえ地方版であっても、記事全体の構成を見ると、産経はいつから同性婚支持の論陣を張るようになったのか、とみられても仕方がない内容だった。

 この記事には、筆者は冒頭から違和感を持った。「異性婚のように結婚が認められていない同性カップル」と、「異性婚」という言葉をカギ括弧(かっこ)なしで使っていたからだ。わが国の婚姻制度は、結婚を男女に限定しているのだから、結婚は当然、異性間のもの。このため、「異性婚」という言葉をほとんど使われない。この記事から「同性婚」も婚姻の一つと考える記者の危うい結婚観が伝わってきた。

◆同性婚推進派が使用

 そこで、全国紙が「異性婚」という言葉をどれだけ使っているのかを、新聞記事などの検索サービス「日経テレコン」で調べたところ、全期間で58件、過去1年間では15件がヒットしただけで、多くはない。

 例えば、朝日新聞は昨年7月26日付で、「同性婚認められず、『重大な人権侵害』」との見出しで、同性カップルの結婚を認めないのは「重大な人権侵害」だとした、日本弁護士連合会の意見書に関する記事を掲載。その中で「婚姻は、両性の合意のみに基づいて」とある憲法24条について「国家が異性婚以外のあり方を認めないことの正当化事由にならない」との同連合会の見方を紹介する形で、この言葉が登場した。このように、団体や識者の主張として「異性婚」が出てくる場合が多く、記者自身が使った記事は極めて少ない。

 また、28年は3件、17年5件、16年6件とわずかしか新聞に登場していないが、過去1年間で増えたのは、同性婚の法制化を求める団体や識者の活動が活発化していることの証左と言えよう。それを考えると、保守系の新聞であっても、産経記者はその動きに影響されたか、確信的な同性婚推進派かのいずれかだろう。

 一方、読売新聞1月31日付でも「異性婚」が使われたが、それは30日の参院予算委員会における議員の発言を紹介したからだ。

 この言葉を使ったのは、同性愛者であることを公表し、同性婚の実現に向けて活動する立憲民主党の石川大我氏だ。近藤正春・内閣法制局長官が第24条の「両性の合意」という文言から、現行憲法は「当事者双方の性別が同性である婚姻の成立は想定していない」との見解を述べたことに対し、石川氏は24条の趣旨について「異性婚であれ同性婚であれ、自分の望む相手と自由に結婚できるという権利ではないか」と安倍首相に見解をただしたのだった。

 これに対して、首相は「現行憲法下では、同性カップルに婚姻を認めることは想定されていない。同性婚を認めるために憲法改正を検討すべきかどうかということは議論されてしかるべきかもしれないが、わが国の家族の在り方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要する」との認識を示した。

 ちなみに、「日経テレコン」で「異性婚」がヒットした最も古い記事は1996年8月21日付で、これもなぜか産経だった。「ヨーロッパの家族」という連載の3回目に、「多極化する『家族』 同性愛・未婚の母」の記事があり、その写真説明で使われていた。

◆結婚の目的熟考必要

 NHKの「ハーバード白熱教室」で日本でも知られるようになった米国の哲学者マイケル・サンデル氏がこんなことを言っている。「どんな人に結婚の資格があるか決めるためには、結婚の目的とそれが称える美徳について考えぬかなくてはいけない」(早川書房「これからの『正義』の話をしよう」)。産経の記者も結婚の目的と美徳について熟慮していれば「異性婚」という言葉は使わなかったかもしれない。(森田清策)