新型肺炎、濃淡はあるが中国の情報開示には問題ありと批判する各紙
◆懸念される感染拡大
「現在のところ、新型肺炎で死亡する割合は、重症急性呼吸器症候群(SARS)やMERSほど高くない。正確な情報を基に、冷静な対応を心がけたい」(読売・28日付社説)。
中国本土で28日までに感染者5974人(死亡132人)。前日から1459人増え、死者も26人増えた。中国本土以外の17カ国・地域での感染確認者はタイの14人が2桁だが、他はまだ1桁(日本は7人)にとどまるが、これらを合わせると世界で6000人を超えたとみられる。潜伏期間が1~14日とされるので、これらの国でも今後の拡大が懸念されるのである。
中国湖北省武漢市を中心とする新型コロナウイルスによる肺炎の拡大に対して、日本政府の対策も大きく動き出した。まず28日に閣議決定で、新型肺炎を感染症法の「指定感染症」と検疫法の「検疫感染症」にすることを決定。強制入院による患者隔離などが可能となるほか、医療費の公費負担などで感染者支援もできる。また、この日は日本人男性の感染が初めて確認された。渡航歴のない奈良県の60代男性で、これによって「人から人への感染」の可能性が高まった。
一方、昨日は帰国を希望する現地滞在の邦人206人を乗せた政府チャーター機(第1陣)が東京・羽田空港に到着した。この中で、体調不良を訴えた5人が指定医療機関に搬送されたほか、症状のない帰国者も検査や2週間ほどの経過観察を求めるなど拡大防止に努める。残る邦人の早期帰国のため、チャーター便第2便も昨夜、動き出した。
◆冷静な対応呼び掛け
こうした状況の中で、新聞論調は冒頭のように地味な表現だが、まず「冷静な対応」を呼び掛けたのは妥当といえよう。各紙は読売と並んで28日に論調を掲げた。政府が指定感染症に指定する閣議決定した当日であるが、小紙はいち早く先駆けて24日付で「感染防止に水際対策が最重要」と警鐘を鳴らした。これは評価されていい。
すでに武漢では交通機関を運休させ移動手段を制限するなど厳戒態勢に入っていたが、「感染者やその濃厚接触者の『封じ込め』の手段として妥当だ」と評価。日本政府に「中国は春節を迎え、多くの人の来日が予想される。各空港とも検疫体制を厳重に整え」ることを求める一方で、「警戒を怠ってはいけないが、神経質になり過ぎる必要はない」と説いた。しかし、世界保健機関(WHO)が公衆衛生上の緊急事態とするかの結論を持ち越したことについては「正確な情報が集まらず、実勢や実態がつかめていないという委員会の主張の背景に、中国当局の感染者発見の遅れや予防措置の不足に対する不満が」あると批判、今回も情報開示における中国の問題を指摘したことは留意されていい。
日本政府の対応については、その評価が微妙なニュアンスで伝わってくる。
「指定感染症」に指定する方針について、WHOの「緊急事態宣言を待たず、患者の拡大を見越して先手を打った形だ」とした読売は、チャーター機運航も「自国民保護の観点から妥当な措置」だと評価。中国政府には「患者やウイルスについての情報を各国に素早く公開し、協力を得る姿勢」を求めた。
◆長期戦の覚悟求める
中国の「対応が後手に回った感は否めない」と批判する日経も、政府の「指定感染症」指定については「異例の短期間で指定を決めた」ことを妥当と認めた。さらに「終息まで約8カ月かかった」SARSを例に「新型肺炎も東京五輪までに収まらない可能性」に言及し、「腰を据えて対策に取り組まねばならない」と長期戦の覚悟を求めた。同感だ。
毎日も「指定感染症」指定を「国内の感染者増加に備え先手を打って準備しておくことには意味がある」と説く。2009年の新型インフルエンザの世界的流行時に「発熱外来」を設けた医療機関などの対応を例に「適切な診療ができるよう医療体制の点検や備えも先回りして進めておきたい」と提案した。そして、中国に「いっそうの情報公開を求めた」のも肯(うなず)ける。
これに対して産経が「邦人を帰国させるのは当然で、遅すぎたくらいだ」、「日本政府の『指定感染症』の決断は遅かった」とするのはやや無理強いの感も。朝日は昨日まで社説不掲載である。
(堀本和博)