各誌「ゴーン逃亡劇」の真相を追究も多くはナゾのまま、続報に期待

◆レバノンで“幽閉”も

 ゴーン逃亡劇、日本の司法がコケにされただけでなく、映画紛(まが)いの脱出で出国管理の穴までが大写しにされ、日本はとんだ赤っ恥をかいた。しかし、一方、これほど週刊誌と読者を興奮させる話題もないだろう。ナゾが多く、登場人物のヘマや復讐(ふくしゅう)、責任追及など、興味津々のポイントが満載だ。

 週刊文春(1月16日号)が「ゴーン逃亡全真相」を書いている。だが経緯の説明にほとんどを費やし「全真相」と言いながらナゾのままが多く、記事を読んだだけでは脱出劇の細部はハッキリしない。

 その中で、「特捜部はゴーン氏の逃亡の協力者としてフランスのPR会社の女性代表と、同社アドバイザーで、都内在住の仏人男性」に注目しており、この男性が「イスラエル関連のビジネスに関わっている」として、ゴーン氏が商談でイスラエルに入国した過去があると指摘。「敵国との内通を禁じたレバノンの法に違反するとして現地で訴追の可能性も浮上している」ことを「地検関係者」が同誌に明かしている。

 安全地帯と思って逃げ込んだレバノンがゴーン氏にとって「監獄」になる可能性があるというのだから、現実化すれば、これを“痛快”と言うわずして何と言おう。

 もっとも同誌の記事ではこの部分が注目を引くだけで、取りあえず分かっている情報、集めた情報をまとめた感は否めない。

 一方、週刊新潮(1月16日号)は「風と共に『ゴーン』10の謎」の記事でゴーン劇場をオムニバス形式でまとめている。他にない情報としては、「逃亡計画の“協力者”らしき日本人男性も出入りを重ねていた」としているところだ。もしこの男性を特定できれば、逃亡の多くの部分が明らかになると期待できる。

 レバノンということで「テルアビブ銃乱射事件」(1972年)の「岡本公三」を取り上げているのも同誌らしい。岡本はレバノンで保護されてはいるが、国外に出ることも、日本に帰国することもできずに事実上“幽閉”されているのが実情だ。ゴーン被告にこんな未来が待っているとすれば、「大統領より偉い」と豪語したのはどこの誰だったか、ということになる。

◆弁護士が“お膳立て”

 それにしても弁護士というのは因果な商売だ。罪が明白な依頼者であっても、情状を訴え減刑を勝ち取ろうとしなければならない。「悪人を助ける悪人」のイメージを持たれやすいのだ。

 今回も、ゴーン被告に付いていた監視を解除せよとねじ込み、監視が解けたまさに翌日、逃亡は実行された。「結果だけ見れば、彼らがやったことは高額な報酬をもらってゴーンの海外逃亡をお膳立てしたということに尽きる」という同誌の指摘は多くの共感を得るだろう。

 フランスの反応の部分は面白い。現地のジャーナリストに同誌は聞いた。「フランスは日本以上に階級社会が成立しているので、新聞は一部のエリート層しか読みません」として、その上で、仏紙フィガロが行った世論調査も、そうしたエリート層を調べた結果であって、それが「『世論』だと主張するところが如何にも、フランスらしいですよね」と言っている。フィガロが何を調べたかというと、ゴーンの「逃亡が正しい」かどうかで、正しいと答えたのが読者の80%に達したという。

◆効かぬODAカード

 国際刑事警察機構(インターポール)は日本の要請を受けて、ゴーン被告の国際逮捕手配を出したが、レバノン政府がおとなしく身柄を日本に引き渡す可能性はない。そこで日本は「金の力」つまり政府開発援助(ODA)をカードに使って、レバノン政府に圧力をかけたらどうかという意見も出ている。

 これに対する「元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏」の見解がケッサクだ。日本がODAの金を絞っても、「それ以上のカネをゴーンは積むことでしょう」というのだ。差し当たり、日本側ができることはなさそうだ。

 ゴーン逃亡劇は1幕目が上がったところだ。まだ2幕も3幕もありそうな展開で、しばらくはベイルートに週刊誌記者やフリーの記者がたむろすることになる。続報を期待しよう。

(岩崎 哲)