日本の司法の異様さ印象付けゴーン被告逃亡を正当化しようとする朝日

◆新聞で唯一会見参加

 日産前会長カルロス・ゴーン被告が国外逃亡したレバノンで記者会見を開いた。内容は「陰謀」「迫害」の持論の繰り返しで、新味に乏しいと各紙は酷評している(9日付)。

 記者会見には「日本のメディアは多くが出席できなかった。関係者によると、過去の報道内容などをチェックした上で、出席を認めるメディアを選別したという。読売新聞も出席を申し込んだが、『ゴーン氏に攻撃的な記事を書いている』(ゴーン被告の弁護団の一人)として拒否された」(読売9日付)という。

 では、ゴーン被告の眼鏡にかなったのは―。毎日によると「朝日新聞、テレビ東京、小学館の取材チームのみ。毎日新聞を含む多くは参加を申し込んだものの拒まれた」(10日付)。新聞では朝日1社だけ。よほど気に入られているらしい。

 その2日後、ゴーン被告は日本メディアの代表取材に応じた。これを朝日は社会面で「逃亡、弁護団に相談せず 『私には発言力・金がある』」と報じ、「(やりとりは)ゴーン前会長側のPR会社が日本メディア各社から質問を募り、一部の社が代表して取材する形で実施。約30分のインタビュー映像と音声が各社に公開された」と記す(11日付)。

 事前に質問を募るのは一種の情報統制だ。これを読売は記事にせず、産経は共同の配信を社会面に小さく報じたのは見識だ。毎日の扱いも小さく、ゴーン被告が8日の記者会見について「『日本メディアはどの社も同じ報道をするので、2、3社を入れれば彼らが伝えると思った』と弁明した」と書く(11日付)。

◆被告の主張垂れ流す

 それだけに朝日の入れ込みが際立つ。代表取材はどの社がしたのか不明だが、12日付の朝日を見て驚いた。代表取材と同じ10日に何とゴーン被告の「単独取材」をしていた。「裁判『10年も耐えろというのか』 ゴーン被告、『違法出国』認める」と、こちらは第2社会面トップ扱いだ。

 日本メディアの代表取材と同じ日に朝日は単独取材。ならば代表取材は何だったのか、他社は虚仮(こけ)にされている。10日なら11日付に掲載できそうだが、1日遅れの12日付なのは同日付が憚(はばか)られたか。確かに朝日は出し抜いた。だが、それはゴーン被告の言い分の垂れ流しにすぎない。

 社説を見ると、日経は「ゴーン元会長の『情報戦』に有効な反論を」(10日付)、産経は「政府挙げて情報戦に臨め」(10日付)と「情報戦」を警戒する。ゴーン被告は日本の有罪率の高さを挙げ「検察が99・4%も勝つのは、司法制度が大きな利点を彼らに授け、被告には利点がないからだ」(朝日12日付)と、日本の司法の異様さを印象付けて逃亡を正当化しようとする。

 だが、日本の検察の起訴率は他国と違って約33%(平成29年)と低い。的確な証拠で有罪判決が得られる場合に初めて起訴するからだ。有罪率は当然、高くなる。ゴーン被告の主張は無知の所産だ。

◆海外と総合的比較を

 ところが、左派紙はゴーン被告に同調し、国外逃亡を非難する一方で東京は「もともと日本の刑事司法は世界から見て異様」(4日付)、朝日は「日本では容疑を認めない人を長く拘束する悪弊が続き、国内外の批判を招いていた」(7日付)と論じている。

 もとより「人質司法」は改革の余地がある。だが、保釈後の犯罪も見逃せない。海外と比較するなら、「人質司法」だけでなく総合的に見るべきだ。昨年、日経の坂口祐一編集委員が詳述していた(同2月25日付夕刊)。

 ―フランスには日本にない「予審」捜査で最長約4年の勾留を認める。逮捕に令状は要らず、予防的に身柄を拘束する仕組みもある。日本では通信傍受は18年46件だが、米英は年間数千~数万件、イタリアは十数万件。裁判所の令状のない行政傍受もある―

 加えて、おとり捜査や潜入捜査、被告にGPS(全方位測位システム)も付ける。それを言わない左派紙の「人質司法」批判はまさに脱漏(だつろう)。すなわち偏向報道である。

(増 記代司)