司令官殺害で中東不安定化もイランの軍事行動は縮小と予測する米紙

◆意図的に攻撃を抑制

 イランの精鋭コッズ部隊のソレイマニ司令官殺害で、米イラン間の緊張が高まる中、中東情勢の不安定化、不透明化が懸念されている。中東専門家のエリオラ・カッツ氏は米政治専門紙ザ・ヒルで、「短期的には中東は不安定化し、一触即発の状態が続くが、長期的にはイランの作戦は大幅に縮小する」と予測している。

 イランは司令官殺害の報復として、イラク北部の2カ所の米軍基地をミサイルで攻撃した。発射した15発中、基地に着弾したのは11発。しかし、人的被害はゼロで、物的被害も最小限だった。これまでのイランによる精度の高いミサイル攻撃と比較すると「まったく対照的」であり、イランが意図的に攻撃を抑制した可能性があるとカッツ氏は指摘する。

 イランのザリフ外相は攻撃後直ちに「国連憲章に基づき、自衛のための相応の措置を取り、完了した」と報復の終了を表明、「事態の悪化は望まないが、攻撃に対しては自衛措置を取る」とツイートした。

 同時に国内では、イラン国営通信が、この攻撃で80人の米国人が死亡したと報じた。

 これについてカッツ氏は、「イランは、大規模な被害を出したり、米国人犠牲者を出すことでトランプ氏のレッドラインを越えたりすることを回避しつつ、報復はしたと主張することで慎重に調整した」「(米、イラン)両者とも、妥当な『満足』に達したようだ」と指摘、事態の悪化は一応、回避されたことを強調している。

 カッツ氏は、米国はソレイマニ司令官殺害で、「イランと戦う道を選択した」と指摘するものの、イランの選択肢は極めて限られている。小規模なテロ、核開発の促進、民兵を使った小規模な攻撃などだ。しかし、「リスクが大きく、成功の可能性は低い」とカッツ氏は指摘する。

◆代理組織の攻撃懸念

 一方で、「米、イスラエル人が乗った航空機を撃墜する」などの大規模テロ、第三国などで警備の薄いソフトターゲットや外交官を殺害するという作戦を「復活させる」可能性もあると予測している。

 各地の代理組織による攻撃も懸念材料だ。イエメンのシーア派武装組織フーシ派が、司令官殺害を受けて対米報復を誓った。また、あまり報じられていないが、アフリカ東部のケニアでは、ソレイマニ司令官殺害の2日後に、アルカイダ系のイスラム過激派アルシャバーブが米軍基地を攻撃し、米兵1人、民間人2人を殺害した。

 アルシャバーブは近年、イランの支援を受けているとされ、今後、拠点とするソマリアで対米テロが増加する可能性がある。アルシャバーブは、ソマリアなどで頻繁にテロを実施、昨年12月にも85人の死者を出したばかり。このところ隣国ケニアへの越境攻撃も行っており、アフリカ東部の政治に詳しいラシド・アブディ氏は、南アフリカのニュースサイト「メール・アンド・ガーディアン」で「アルシャバーブが、ケニア海軍、米特殊部隊キャンプを攻撃するのは初めて」と攻撃の重要性を強調している。

 米国は数十年前からソマリアでの紛争に関与してきたが、トランプ政権になって以降、アルシャバーブへの空爆が急増しており、メール・アンド・ガーディアンによると、過去3年間で148回の無人機攻撃が行われ、900人から1000人が死亡している。

◆小規模なテロ増加か

 シンクタンク「国際危機グループ」の「アフリカの角」担当部長ムルティ・ムルガ氏も同サイトで、「アルシャバーブは、適応能力が高く、回復力もある」と警告している。

 カッツ氏は、「イランの法学者支配体制は思想的だが、自殺行為は犯さない」と指摘、イランは今後「全面戦争のリスクのない、第三世界でのソフトターゲットに対する低烈度の攻撃」を実施すると予測している。

 司令官殺害をめぐって中露はイラン側の立場に立つが、米国と対立してまでイランを支援する意思がないのは明らかだ。カッツ氏は、「イランは孤立無援であり、頼りは代理組織の民兵だけ」と主張。今後、中東・アフリカの広範囲で、小規模なテロ、衝突が増加すると警告している。

(本田隆文)