日本の科学技術政策の“お寒い”現状に警鐘を鳴らす産経の強い危機感

◆成果主義偏重の弊害

 今年は五輪イヤーの記念すべき年である。前回の五輪時と比べて経済環境は激変し、低成長・少子高齢化の中で日本経済はどんな展望をたどるのか、また、予想される事態にどう対処すべきなのか。

 そんな視点で各紙の新年経済社説を見て、強い危機感と共感を持ったのが、産経6日付の「科学技術立国/人を育てる政策を掲げよ、成果偏重が『失速』を招いた」である。

 自然科学系の3分野(医学・生理学、物理、化学)でノーベル賞を受賞した日本の研究者(米国籍2人を含む)はこの20年で19人と米国に次いで多く、この点では、日本の科学研究の水準は高いと言える。ただ、受賞業績の多くは1990年代の成果であり、受賞者の多くが、日本の科学研究の現状に対して強い危機感を表明している。

 短期的な成果主義偏重の弊害は、以前から指摘され、小欄でもかなり前に取り上げたことがある。ここで改めて強調したいのは、「にもかかわらず、政府は危機的状況から脱却する施策を示せていない」(産経)ばかりか、弊害を助長するような出来事が起きていたからである。

◆研究者軽視した政府

 その出来事とは、昨年11月に表面化したiPS細胞(人工多能性幹細胞)の備蓄事業をめぐる「騒動」(同)である。政府はiPS細胞を開発した京都大学の山中伸弥教授が12年にノーベル賞を受賞したことを受け、22年度までの10年間に再生医療の研究開発に1100億円を拠出することを決定していたが、昨年11月に山中教授が会見で備蓄事業への国の支援の打ち切りや減額案があることを明らかにしたのである。

 結果的に支援は当初予定の22年度まで継続されることになったが、産経は、支援の打ち切り・減額案が山中氏や京都大関係者がいない場で検討され、山中氏らに危機感、不信感を抱かせたと指摘。

 同紙は「政府の危機感の欠如と、不透明で場当たり的な科学技術政策の形成過程があからさまになった」と強調するとともに、日本を代表する科学者の一人であるノーベル賞受賞者が、科学技術政策の決定過程でないがしろにされていた状況で、「日本の将来を担う研究者が育つとは考えられない」と慨嘆したが、道理である。

 同紙は政府に対し、長期的視野の欠如、研究者軽視を猛省し、抜本的な転換を図らねばならないと注文と付けたが、科学技術立国を標榜(ひょうぼう)する政府の“お寒い”政策形成過程に愕然(がくぜん)とするばかりである。

 「科学技術政策の根幹に掲げるべきは、投資に見合う成果や目標ではなく、人(研究者)を育てる理念である」

 産経は社説の結びの方でこう強調したが、至言である。

◆博士号取得者が減少

 同様な視点で、「若い博士が広く活躍できる社会に」と訴えたのが、5日付日経である。

 日経は日本で毎年新たに博士になる人の数が減少していることを紹介。100万人当たりの博士号取得者数が米国やドイツ、英国、韓国に比べて半分以下で、さらに10年で1割以上も減った(2016年度)とし、「先進国ではあまりみられない、由々しき事態だ」と危機感を表明した。

 また、海外は知的集約型社会に向き合うため、国も企業も優れた博士の獲得を競う。

 対して日本は、「若者にとって博士は将来への不安を抱える『不安定な身分』の代名詞に変質した。優秀でも修士のまま卒業する方が就職に有利と、博士を目指す人も減る。…日本の博士冷遇は世界の潮流に逆らっている。早急に『負の連鎖』を断ち切らなければならない」(日経)状況である。

 同紙は給付型奨学金の拡充や、大学の研究室の「構造改革」が急務などと説く。貴重な提案が少なくない。

 読売は6日付で、「社会保障と財政/制度の安心と信頼を取り戻せ」としたが、年末の予算案に関するものとほぼ同様で、新味がなかった。

(床井明男)