日本の精神を受け継ぐ人々に話を聞いた朝日の好連載「志エコノミー」
◆悪口雑言の元旦社説
2020年、令和2年が明けた。今年最初の本欄で元旦社説を俎上(そじょう)に載せようと思ったが、やめにした。4日付「産経抄」が代弁してくれていた。
「元日はすがすがしくワクワクした気分で過ごしたかったが、職業柄、少し気が重い恒例行事も避けられない。何のことはない他紙の朝刊紙面のチェックだが、やはり『またか』とうっとうしい心持ちとなった」
それは朝日と毎日の元旦社説で、「(安倍批判が)あまりに抽象的で一方的な決めつけに満ちたそれは、単なる悪口雑言に聞こえてしまう」。同感である。元旦社説を論じるのは二番煎じで野暮だろう。
というわけで、心に留まった記事を紹介する。それはうっとうしい朝日にあった。経済記者が手掛ける連載インタビュー「志(こころざし)エコノミー」。趣旨は「利益だけを追い求め、グローバルな競争に勝つためには犠牲をいとわない。そんな経済には限界がありそうです。何が必要なのでしょう。世の中のため、人のためを思って進む人たちの志に、ヒントがあるかもしれません」。これはすがすがしい企画だ。
◆監督業は経営と同じ
元旦は経済人でなく意外にもプロ野球・北海道日本ハムの栗山英樹監督で、「人のために尽くす喜び 渋沢に学べ」。2012年に監督に就任して以来、新人選手の全てに渋沢栄一の談話集「論語と算盤(そろばん)」を手渡しているという。
記者は聞く、「道徳(論語)と経済活動(算盤)を一致させることが大切で、誠実な振る舞いや他者の利益を優先して考えることが社会の繁栄につながる。渋沢は、そう説いています。野球と、どんな関係がありますか」。
栗山監督は語る。
「自分のためにやることには限界がありますが、だれかのためにはがんばれるじゃないですか、人間って。自分には、みんなを幸せにする使命があるんだ、と思えば何でもできるんです」
さらに記者は聞く、「自分のために野球をする、という選手がいてもいいのでは」。これには「最初はいいですよ。だけど、自分のためだけに何年も続けられますか。例えば、30億円もらったら目標がなくなっちゃう。野球は送りバントなど自分を犠牲にするプレーが随所で求められます。論語を理解しないと野球はうまくなれません」と動じない。
「プロ野球の監督業とは経営なんです。一人一人の特徴を生かして結果を残すことが仕事なんです。松下(幸之助)さんや稲盛(和夫)さんが監督をやったら、絶対に勝ちますよ。渋沢さんも、そうです。きっと選手みんなが、この人のために、と命がけになりますよ」
◆文化を教え人材育成
4日付は元駐日ベナン大使、ゾマホン・ルフィンさんで「貧しいベナン アフリカで1番に 日本文化教え経済発展支える人材育成」。テレビ番組「ここがヘンだよ日本人」で人気を集め、出演料や本の印税で西アフリカの母国ベナンに小学校をつくった。
ゾマホンさんの学校は「『あいうえお』を学ぶだけの場所ではなく、日本文化を学びます。日本人の考え方、行動様式、宗教、食べ物、着物、それらを学ぶ場所にしています」と言う。
「日本人の考え方、行動様式は、ほかの国の人とは違います。日本人は、自分のことを先に考えない。まず、相手に迷惑をかけないように動く人間です。自分さえ良ければいいとは考えない」「(日本文化を学ぶと)心が切り替わります。みんなで力をあわせる集団として経済発展にがんばろうと考える人材になります」
こういう姿勢を評論家の山本七平氏は「日本資本主義の精神」と名付けた。栗山監督もゾマホンさんも日本の精神を受け継ぐ。朝日の経済記者はそこに着目したわけだが、朝日元旦社説は水を差すように「『人類普遍』を手放さずに」と「普遍」ばかりを強調する。
ゾマホンさんならこう言うだろう、「ここがヘンだよ朝日社説」。論説陣には心の切り替えが必要なようだ。
(増 記代司)










