説得力あったダイヤモンド新年号の李登輝元台湾総統インタビュー
◆絵空事の文氏の寄稿
経済誌3誌は毎年、年末に「新年予測」を企画する。それぞれ今年の特集の表題は週刊ダイヤモンド(12月28日・1月4日合併号)が「2020総予測 未来が決まる!」。週刊東洋経済(同号)は「2020代予測 大変革の10年が始まる!」。そして週刊エコノミスト(12月31日・1月7日号)が「世界経済総予測2020」だ。エコノミスト以外は単に経済分野の予測にとどまらず、政治、文化、スポーツに広がっているので、それだけに読み応えがあるが、今年に限って言えばダイヤモンドが経済学者や有識者の他に世界の要人を登場させていることが注目される。中でも目を引いたのが韓国の文在寅大統領の特別寄稿と台湾元総統の李登輝氏の紙面インタビュー記事である。
今年は韓国では総選挙、台湾では総統選挙があるだけに、両者の主張にはおのずと関心がいくものだが、総じて見れば、文大統領の寄稿は単に自身の平和論を語っているだけという印象を拭えない。「朝鮮半島で平和が実現するならば、韓国は大陸と大海を接続するポジションを占め、北東アジアにおける平和で豊かな秩序を確立する努力の先頭になることになる。韓国がそのような懸け橋として働くことは私たち南北朝鮮、北東アジア、東南アジア諸国連合(ASEAN)そして平和な世界秩序に役することになるだろう」といった具合で何か絵空事と思えてしまうのは私だけではないだろう。
◆中国の思惑を見抜く
一方、李登輝氏のインタビュー記事には切迫感があふれ、そして説得力がある。「21世紀に入り、中国は経済・政治・軍事・科学技術など各分野で目を見張る発展を遂げた。だが、指摘しておきたいのは、中国の発展は覇権主義的であり、決して民主的かつ自由な文明ではないということだ」と中国の思惑を見抜き、米国に対しては、「米国は民主主義を標榜する社会だ。経済的には中国との関係が利益になるが、こうした状況でも米国の良心を発露させてきたのが米国議会だ」と語り、民主主義を軸足とする米国を称(たた)える一方で、日本に対しては、「日本の場合は残念ながらこうした時の反射神経というか、反応が鈍い。中国に大きな幻想を抱いている国会議員や外務省の『チャイナスクール』と呼ばれる官僚が多すぎる。これだけ情報の獲得が容易になった現在、日本も大きく変わるべきではないか」と訴える。
ちなみに、李登輝氏の言う「米国の良心」とは、1995年に同氏が訪米の際に、中国からの妨害工作があったものの、米国議会上下院の採決で訪米することができた点を挙げる。
ところで2020年の経済予測については、3誌とも変わらない「外需が持ち直す一方で内需が反落。政府は12月5日に事業総額26兆円、財政支出13・2兆円の経済対策を打ち出したが、その効果も後半には剥落する見通し」(東洋経済)、「国内では政府の経済政策の効果、五輪需要が見込まれるだけに、20年の景気も海外経済動向がポイントになりそうだ。…(米中貿易の)摩擦再燃による関税引き上げを懸念する声は少なくなく、その場合は景気を下降させる要因となる」(ダイヤモンド)と分析する。
◆経済より大事なもの
総論を言えば、国内経済は堅調に推移するものの、海外要因がリスクとなるというところなのだろうが、ここで気になる記事を一つ挙げたい。それはエコノミストの米ハーバード大学名誉教授であるエズラ・ボーゲル氏へのインタビュー記事である。同氏は
日本の対中政策について次のように語る。「2014年ごろは中国人の約9割が悪い対日感情を持っていたが、現在は6~7割まで下がり、関係は安定に向かっている。日本にとっては香港問題で中国を非難するよりも、習主席訪日を成功させる方が大事なはずだ」と。これは明らかにミスリードであろう。経済よりも大事なもの(自由主義の堅持)があるからである。
(湯朝 肇)










