中国による台湾総統選への軍事的威圧や干渉をたしなめた読、毎、産経

◆価値観共有する日台

 令和2年の日本と世界情勢を展望する上で、最初の大きなトピックとなる台湾の総統選は今月11日に投開票が行われる。台湾の行方は日本にも東アジア情勢にも大きな影響を与えるだけに、無関心でいることはできない。師走の16日に、読売、毎日、産経の3紙は台湾総統選をテーマに社論を掲げた。

 3紙が論及したのは①台湾総統選の意義と日本②香港の混乱が影響する総統選の行方③中国の選挙介入への懸念―などについてである。

 まず①について。キーワードは「民主主義」である。産経は「台湾が成熟した民主主義を守れるかどうかの正念場であり、東アジアの平和と安定に直接かかわる重要な選挙」だと強調する。その上で価値観を共有しているから「地政学的要衝である台湾の危機は日本の危機に直結」する同盟関係同様にあると指摘。総統選が「安全保障面を含む日台協力関係の発展に道を開く」ことに期待を込めたのである。

 選挙情勢の分析に大半を費やしたのは読売で、その分、意義については台湾の安定と発展が「日本や周辺国にとって極めて重要だ」、日本は「選挙結果と次期政権の政策が東アジア情勢に与える影響について注視する必要」を言うだけの一般論では物足りない。

 その点では毎日も「台湾住民の選択を冷静に見守りたい」と読売に似た一般論だが、その先にまで言及し「台湾は1987年の戒厳令解除以降、民主化が進んだ」「(96年の初の総統直接選挙から)これまでに3度の政権交代が実現し、民主主義が完全に定着した」と評価した。民主主義体制の成熟化で中国に対抗する台湾について「台湾海峡の安定は日本の安全に不可欠だ」と強調し、台湾の変化、中台関係の行方に強く関心を持つことを丁寧に訴えた。妥当な主張で同意できる。

◆香港情勢で韓氏失速

 総統選はすでに報道されているように、現職で再選をめざす蔡英文(さいえいぶん)総統、最大野党・国民党の韓国瑜(かんこくゆ)高雄市長、野党・親民党の宋楚瑜(そうそゆ)主席の三つ巴(どもえ)戦だが、実質的には蔡、韓両氏の争いだ。②はその行方で、中国が控える香港の混乱が影響して、蔡氏優位に展開していることは3紙とも一致している。

 最も詳しく論じた読売は4年前の選挙で、台湾独立を目指す党の原則を封印して「現状維持」の独立でも統一でもない穏健路線に徹した蔡氏が、今回は「『北京の圧力に屈すれば台湾は消えてなくなる』と、中国批判のトーンを強め」たことが追い風になったとみる。「対中強硬姿勢が有権者により受け入れられやすくなった」と考えたからだとも指摘。激しい反中デモが続く香港情勢から「親中派」と見なされた韓氏が失速、との見方を示した。その上で、「民意を尊重しない中国の手法が自らに不利な情勢を招いた」と批判したのは肯ける。

 毎日も「香港の現実を見れば、台湾が『1国2制度』を受け入れることはあるまい」、中国に「台湾政策を柔軟に見直すべき」だと主張。産経も「中国の香港介入を不安視する多くの人が、蔡氏の毅然(きぜん)とした対中姿勢を評価する」ことが蔡氏を優位にしていると分析した。

◆ネット通じた介入も

 懸念されるのは③である。産経は、オーストラリアに亡命申請した中国人男性が「香港や台湾での世論工作を告白した」との豪州メディアの報道や、96年の台湾初の総統直接選で中国が行ったミサイル発射威嚇を例に「露骨な軍事的圧力に加えて、サイバー部隊による巧妙な選挙介入を仕掛ける可能性も十分にある」と危惧。中国の「民主主義を踏みにじる選挙介入に対して、台湾と国際社会」に警戒するよう強調した。

 これについては毎日が「選挙中にも軍事的な圧力を強化し、ネットを通じて選挙に介入する」懸念に言及し「だが、圧力は反発を生むだけだ」とたしなめた。読売も「中国は選挙戦への干渉を行うべきではない」「威圧を強めれば、台湾の民意は一層遠ざかっていく」ことを示し、自重を求めたのは当然である。

(堀本和博)