「巨大地震の予兆」という言葉が独り歩きしそうなAERA災害記事
◆頻発する中規模地震
今月上旬、茨城県や栃木県で、マグニチュード(M)4、最大震度4クラスの中規模地震が計6回発生した。
M4台の地震は日本で年間200回以上起こっているという。今回の一連の地震について、気象庁は既に5日に「これらの地震に関連性は見られない」と発表している。これに対し、AERA12月23日号は「関東北部の群発地震は巨大地震の予兆か/来るものと思い備えを」と題し、あえて専門家2人に聞いている。
1人目の東海大学海洋研究所所長で同大教授の長尾年恭さんは、「今回、茨城北部では4日にM4・8の地震が起きたあと、翌日にM3・9やM4・5の地震が起きています。あくまで統計的にですが、過去の地震の際の前震と似た特徴があります」と、各地震の関連性に言及。AERAは長尾さんから「近いうちに、M6程度の比較的規模の大きな地震が起きる可能性は捨てきれません」という話を引き出している。気象庁発表に対し、してやったり、というところだろう。
しかし、もう1人の地震学者で東北学院大学・中央学院大学講師の水本匡起さんは、それぞれの地震の震源の深さの違いなどを考慮に入れ、「3カ所で起こった地震はそれぞれ、発生のメカニズムが異なります。関連はないと考えるのが自然でしょう」と話を結ぶ。
◆各震源の深さが違う
茨城県北部と栃木県北部で発生した地震はそれぞれ震源の深さが約10㌔と浅く、地表に近い岩盤が縦に動いたことによる活断層型の地震。一方、茨城県南部の地震は50~60㌔とやや深く、太平洋プレートやフィリピン海プレートが単独で破断した地震とみられる。水本さんは「(今回の)三つの地震の関連性は薄いでしょうし、巨大地震の前触れだとも考えにくいですね」と。
AERAは目次に「多発する地震『巨大地震の前触れ』説に専門家真っ二つ」というタイトルを付けている。しかし、気象庁や後者の水本さんは、それぞれの地震の相互関連性さえ否定、前者の長尾さんは「前触れの可能性は捨てきれない」という表現にとどまる。まして前触れ説をめぐり、2人が剣を交わすようにやり合ったわけではない。自然災害が頻発する時期にあって、目を引くタイトルは、人々を不安にさせるだけではないか。
その上で、記事は「今の科学技術では大地震を正確に予知することはできないし、仮にできたとしても地震そのものをなくせるわけではない。ならば、来るもの、と思って備えることが大切だ」と締めている。
地震予知の研究は、25年前の神戸・淡路大震災後、国家的プロジェクトとして始まった。この間、予知の研究は地震の前触れや前震などを含む地震発生のメカニズム解明の研究とタイアップして、それ相当のレベルに至っている。それなのに、予知や予知につながるかもしれない前震などの話は頼りない、地震は、来る時は来るのだから、とにかく備えよ、という口ぶりである。何のために専門家の意見を並べたのか。
◆「群衆なだれ」を指摘
もう一つ、週刊現代(12月21日号)が「東京大地震『群衆なだれ』で死なないために」という地震関連の記事を出している。
「地震が来てもすぐ逃げてはいけない。無理に帰宅しようとしてはいけない」と警告し、ビルやデパートの非常階段、ホテルのロビー、駅周辺の地下街で、人々がパニックを起こしかねない状況を分析している。
例えば、ターミナル駅では「人間は、地震などで携帯電話が不通になり、(中略)情報を得ようとして今の場所から移動しようという心理が働きます。その結果、電車が動かなくなった駅に人が集まり、混み合うのです」と。この12月1日から『NHKスペシャル 体感 首都直下地震』が放送された。その二番煎じだが、重要な視点だ。
(片上晴彦)





