GSOMIA失効停止で文政権の戦略ミス指摘した日本の専門家たち

◆もともと公約が破棄

 「文在寅政権としては、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)を失効させた方が支持率が上がる。今回ここまで降りた(妥協した)のは日韓関係と日米関係を大事にしたいという戦略の上に立っているから。(同政権は)基本的に親中国でも親北朝鮮でもない」

 韓国政府がGSOMIA失効を一時停止すると発表した直後(22日夜)に放送されたBSフジの時事番組「プライムニュース」に出演した恵泉女学園大学大学院教授、李泳采(イヨンチェ)の発言だ。日韓・日朝関係などを専門にする李はしばしばテレビで文政権寄りの発言をしてきたので、同政府の決断をどう分析するのか、注目して見たが、失効停止は日韓・日米関係を大事にした結果だとは、ある意味感心した。

 だが、前外務副大臣の佐藤正久(自民党参議院議員)は、李とは真逆の見方を示した。「もともと文大統領はGSOMIAに反対で、大統領選挙でも破棄が公約だった」「(韓国の)進歩派は南北融和・統一を念頭に置き、そのためには在韓米軍はじゃまだと思っている人がけっこうおり、そういう方々は北朝鮮は敵だと思っていない」。

 この手の時事番組には、日本・韓国それぞれの政府側だけでなく、その中間の立場で発言する識者も出演する。共同通信客員論説委員の平井久志だ。

 「経済の問題と安保の問題を(日本が韓国向け輸出管理を厳格化した)7月以前に戻す努力が必要じゃないか。歴史問題の対立を、日本政府が通商問題に戦線を拡大したことが良くなかった。その問題を安保の問題に拡大した韓国政府も間違っていた」と強調。さらには「(佐藤らの)お話を聞いていると、韓国は友好国ではないのかなと。日米韓の連携を考えるのなら、その枠組みの中に(韓国を)取り込む努力をわれわれがすることが必要」と訴えた。

◆友好関係否定は韓国

 これに反論したのは、元経産省貿易管理部長で中部大学特任教授の細川昌彦。「平井さんには根本的な誤解がある。ホワイト国を外すことは友好国でないということではない。分かりやすい話では、インドはホワイト国ではないが、安全保障の世界では、友好国どころか、インド太平洋戦略の大事なパートナーだ」。つまり、日本政府はホワイト国外しにとどめたのに、「友好国でない」としてGSOMIA破棄を決めたのは韓国政府だから、その責任の所在は明らかだというのである。

 同じ時間帯で放送されたBS―TBS「報道1930」も録画して見たが、日本側の識者に共通した認識は、文政権に戦略ミスがあったということ。明海大学准教授の小谷哲男の分析を紹介する。

 「韓国が読み間違えたのは、GSOMIA失効を決定することによって、米国が日本に圧力をかけて、貿易管理の問題で譲歩を引き出せると思ったのだろう。実際は、米国は日本ではなく韓国に圧力をかけ続けたので、GSOMIAをテコに日本からの譲歩を米国を通じて引き出そうとした人たちの影響力が減っていった。それが今回の一時停止で時間を稼ぐことを可能にしたのだと思う」

 これに追い打ちをかけたのは、自民党参議院議員の松川るい。「韓国は喧嘩(けんか)の仕方を間違った。要するに韓国の喧嘩というのは、そこにいる一番声の大きな人とか、第三者に訴えて、そこから圧力を得て、相手をやっつける。今回で言えば、米国をして、日本に圧力をかけさせるということをやったが、米国人の気質にまったく合わない。日本の侍精神とカウボーイ体質は似ている。本当に大事なものを賭けに使うのはまったく理解できない」。

◆日米韓の連携放棄も

 GSOMIA失効をめぐる迷走で、文政権の安全保障上に関する立ち位置が日米と違うことを露呈させ、両政府から信頼を失ったことは間違いなく、破棄カードを切ったことを後悔しているのかもしれない。しかし、問題はこれから。失効の一時停止中に、日米韓の連携を大切にした現実的判断をしてくれることを期待したいが、さらに孤立感を深めた時、日米韓の連携を完全に見限る危険性もあるのだから。(敬称略)

(森田清策)