秘密保護法案だけでなくスパイ罪やテロ防止の共謀罪を説いた産経
◆国益人権損なう反対
特定秘密保護法案は「知る権利」や「取材の自由」に配慮する条項を盛り込むことで自民、公明両党が合意し、近く国会に上程されそうだ。
来年1月に発足を目指すNSC(国家安全保障会議)は同盟国との情報交換を前提にしており、それには「秘密を厳守することが大前提。NSCの機能を発揮させるには、どうしても必要」(安倍晋三首相、昨日の衆院予算委員会)だ。国際社会では常識的な法整備と言ってよい。
それでも朝日と毎日は「知る権利」を盾に猛反対し、「疑問の根源は変わらぬ」(朝日18日付社説)、「この法案には反対だ」(毎日21日付同)と拳を上げている。本欄で何度も触れたが、最高裁は「正当な取材」は憲法で保障されていると、お墨付きを与えており、そもそも「取材の自由」は漏洩の罰則対象にならない。両紙は「知る権利」ばかりに目が奪われ過ぎだ。それとも「知る権利」を口実に国の安全を損ないたいのか。
他紙も「知る権利」に引きずられている。産経「言論にも配慮し情報管理を」(8月18日付主張)、読売「報道の自由への配慮が必要だ」(9月6日付社説)、日経「疑問点があまりにも多い秘密保護法案」(同7日付社説)といった具合だ。もちろん職業柄、こだわるのは分かるが、これでは「木を見て森を見ない」の過ちを犯しかねない。もっと国家の全体像を見るべきだ。
法案が情報保護の対象にするのは防衛、外交、スパイ活動の防止、テロ防止の4分野の「特定秘密」だが、それらはあくまで情報漏洩の防止であって、スパイ活動やテロ行為を防止できるわけではない。新聞人はスパイ活動によって国益や人権がどれほど損なわれてきたか、思い出すべきだ。
◆邦人拉致に加担同然
北朝鮮による日本人拉致が相次いだ1980年代、警察庁警備局が『スパイの実態/スパイ事件簿』(84年8月、日刊労働通信社)という本を出版し、その中で山田英雄局長(後の警察庁長官)はこう述べている。
「我が国は、現在、世界主要各国がことごとく制定している、いわゆる一般的なスパイ罪の規定はない。その中で戦後、我が国を場とし、我が国の国家的機密を探知するスパイの活動は後をたたないのみならず、国民の防諜意識の低さにつけ込んで、その活動はいよいよ活発化して来ている」
スパイ罪がないから、警察は各般の法令違反によって検挙してきたが、それでは限界と山田局長は訴えているのだ。
佐々淳行氏(初代内閣安全保障室長)も「(北朝鮮による拉致事件を招いたのは)どこの国でも制定されているスパイ防止法がこの国には与えられていなかったからです。…もしあの時、ちゃんとしたスパイ防止法が制定されていれば、今回のような悲惨な拉致事件も起こらずにすんだのではないか」(「諸君」2002年12月号『怪電波なお止まず』)と無念さを語っている。
朝日や毎日はこうした現場の声を黙殺してきた。それどころか、朝日に至ってはスパイ防止法潰しに狂奔した。
民主国では罪刑法定主義が基本だから、あらかじめ犯罪の構成要件、刑罰を定めておかねば、いかなる行為も取り締まれない。それでスパイ罪が必要なのだ。それがないのはスパイ活動が自由、言い換えれば合法で、わが国は「スパイ天国」に陥った。
スパイ防止法の必要性を特定秘密保護法案の論議で指摘したのは産経(前記主張)と本紙社説「防諜組織不在でいいのか」(9月19日付社説)ぐらいだ。これでは特定秘密保護法案でカギをかけても肝心の泥棒は捕まえられない。
◆五輪開催で制定急務
テロ防止も同じことが言える。国連は2000年、国際組織犯罪防止条約を採択し、実効性のある取り締まりのため共謀罪の創設を各国に義務付けた。テロは犠牲者を出す前に封じ込めるのが鉄則だからだ。それで政府は共謀罪を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を国会に提出したが、朝日と毎日などが潰した。
五輪招致が決まり、もはや放置できない。産経主張「テロ未然防止へ創設急げ」(9月27日付)と本紙社説「東京五輪へ万全の体制作りを」(10月10日付)が共謀罪の制定を訴えているが、他紙は触れていない。新聞は「森」をしっかり見据えるべきだ。
(増 記代司)