秘密保護法に反対するため西山事件を引き合いに出す毎日の的外れ

◆「不当な方法」が処罰

 特定秘密保護法案に反対する毎日と朝日は、特集や連載を組んで法案潰しに躍起だ。毎日は9月28日付特集で「揺らぐ知る権利」との見出しを立て、「特定秘密を持っている人だけでなく、欺いたり、脅迫したりするなどして秘密を取得した側も最高懲役10年の処罰を明記したことが大きな特徴だ」とし、こう記す。

 「情報を取得した側が処罰されたケースには、沖縄返還(1972年)に伴う日米密約文書を外務省の事務官から入手した西山太吉・元毎日新聞記者事件があり、西山氏は国家公務員法違反(そそのかし)の罪で起訴され、最高裁で有罪が確定。しかし『国民の知る権利を侵害するものだ』と大きな批判を招き、政府も取材活動などに配慮した対応をしている」

 このように必ずと言ってよいほど西山事件が登場する。それも知る権利を侵害されたケースとしてだが、毎日は重要な論点を覆い隠している。それは最高裁がなぜ、西山氏を有罪にしたかという点だ。

 最高裁も知る権利の重要性を指摘する。だが、西山氏が女性事務官と「情を通じて」秘密を盗み出させた行為を断罪した。これは「不当な方法」で、取材とは認められず、報道の自由にも該当せず、違法とした。つまり知る権利の枠外に置いたのだ。

 逆に言うと、最高裁は正当な取材活動は漏洩の教唆(そそのかし)にならないとお墨付きを与えた。ここが秘密保護と知る権利を論じるポイントだ。今回の秘密保護法に限らず、「欺いたり、脅迫したりするなどして秘密を取得した側」は現行法でも裁かれる。

◆正当な取材は認める

 毎日は触れないが、「不当な方法」については国会で古くから論議されてきた。1954年、在日米軍の防衛秘密を守るために「日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法」が制定された際、「不当な方法」は次のように列挙された。

 (1)人をだまして防衛秘密を呈示させ、これを閲覧したり写真撮影したりする行為、(2)公務員でない者を金品で買収する行為、(3)通常建物に出入りすることが許されている者が、特に入室禁止されている部屋に潜入する行為、(4)金庫の合鍵で開け、あるいは係官の机の中を探知し、これを閲覧したり写真撮影したりする行為、(5)ことさらに多量の酒を飲ませ、酔いに乗じて聞き出す行為、(6)婦人の貞操を提供し、あるいは恋愛を装う等いわゆる色仕掛けをもってする行為

 これらが社会通念上、是認されない主な「不当な方法」とされ、「正当な取材」と認められず、知る権利の範囲外とされた。西山氏は言うまでもなく〓に該当する。それが最高裁の判断である。

 だから、マスコミ関係者が深夜まで粘って聞き出そうとする行為などは熱心な「通常の方法」であって「不当な方法」ではない。望遠レンズで基地を撮影したり、飛行場の付近で飛行機の数や型を見聞したりするなどの取材活動も「通常の方法」で、「不当な方法」とされない。それで政府も取材活動などに配慮した対応をしている。

 少なくとも知る権利を取り上げるなら、知る権利に該当しないとした「不当な行為」を俎上に載せるべきだ。それを書かないのは偏向報道だ。

◆スパイ罪触れぬ朝日

 一方、朝日は6日付に「外国の秘密保護制度」の一覧表として英独仏韓米の5カ国の主な関係法と特徴などを掲載した。英国は公務秘密法、ドイツは保安審査法と刑法、仏は国防法典と刑法、韓国は軍事機密保護法と国家保安法、米国は合衆国法典と大統領命令を挙げている。

 その中に、英国について秘密の対象として「スパイ防止・スパイ活動」との記述があり、作成された絵の中ではウィキリークスに不法に機密情報を提供したマニング上等兵について「禁錮35年(スパイ罪など)」と記している。

 だが、それだけで、スパイ罪について踏み込もうとしない。これらの国はいずれもスパイ罪を設け、その国の最高刑、例えば米国は連邦法典794条(死刑)、英国は国家機密法1条(拘禁刑)で臨んでいる。スパイ罪があるから、それに対応する諜報組織も設け、情報公開にも条件を付ける。

 こうしたことを報じない朝日の秘密保護法案論議も偏っている。偏向報道がまかり通っているのは嘆かわしい。

(増 記代司)