羊頭狗肉の話題で「日本の『右傾化』」示そうとしたアエラの軽々しさ
◆研究会は普通の人々
「日本『右傾化』の真実」というから、「右傾化」とはそもそも何で、「真実」でその正体と本質を示しているのかと思いきや、明治天皇の玄孫、竹田恒泰氏の講演会を紹介しただけの記事で拍子抜けした。アエラ(10月7日号)の特集である。
記事はほかに、韓国サッカー場で旭日旗が翻った「嫌韓思想」、安倍晋三首相に「右っぽく、クリスタル」と訳の分からない見出しを付け、そして、日本と中韓との外交摩擦を「チキンゲーム」とした。「時代」で括った巻頭特集である。
最初の記事「右傾化-」は、昨今の「『右』に引きずられていく」現象と、「天皇」と、それを戴く日本の素晴らしさを説く竹田氏の研究会の盛況とが関連ありそうに並べられている。
竹田氏は慶応義塾大学講師で、日本オリンピック委員会の竹田恒和委員長は父親である。竹田氏の講演を聞いた人は、「日本人ってすごい」という気持ちになり、自己肯定感を覚え、自尊心が高められる、というのだ。竹田氏の話はアエラによれば、もっぱら「尊皇」である。
記事では、自己肯定感の強い人は日本や日本人の国際評価も正当だと受け止めているのに対して、肯定感の低い人は不当な評価を受けていると感じている、というアンケート結果が続く。
この調査は同誌が「『右傾化』と呼ばれる日本人の意識の変化を探ろうと、1千人規模」を対象に行ったものだ。しかし、結果が「右傾化」を測っているのかどうかはよく分からない。
ただ、最後に「自国民や自国に自信や誇りを持つこと自体は、問題視されることではないし、『右傾化』に直結するわけではない」と断りつつも、「自信や誇りは、ときに優越感や排外主義につながる危険性もはらんでいる」と“戒め”を付記するあたり、同誌が最も言いたかったことなのだろう。
そして、「日本や日本人が素晴らしいのは天皇がいるおかげ、という考えは、『右』的な思想の根幹をなすものだ」として、同誌らしい警戒感をむき出しにするが、竹田研究会に参加する人たちには、自分が「『右』という意識は薄い」ことも紹介している。アエラの考える「右」と研究会に参加する普通の人々とが重なり合わないのだ。これこそ、同誌がもっと追究しておくべき「真実」なのではないだろうか。
◆日韓の「誤算」は傾聴
続いて、「チキンゲームの果てに」の記事を見てみる。これは元中国大使館公使を務めた宮家邦彦氏の談話をまとめたものだ。日本と中国、日本と韓国、ともに「誤算」に基づく対立が続いているという分析だ。
宮家氏は、軍事挑発をしない日本を見誤って中国が攻撃を仕掛けてくる場合、「誤算」に端を発した衝突のダメージがいかほどか、事態をコントロールできそうもない中国に大きな不安を感じると指摘する。どこでも言われていることで、別に新味のない分析だ。
日韓問題では、双方に「誤算」があると指摘しているが、これは傾聴していい。要するに、韓国は「日本が謝ってくる」と考えており、日本は「韓国が頭を下げてくる」と見ているというのだ。
韓国が引かないのは、中国の後ろ盾があると考えているからだ。その根拠には米中関係が「融和」だと見ており、韓国が経済だけでなく外交でも中国傾斜を深めようとも、米国の機嫌を損ねずに、むしろ米中双方と協力できる位置を占めていると「信じている」から、という。歴史的に韓国が見てみたかった「夢」である。
一方、日本は対中関係が「よくなれば韓国は後からついて来る」と思っているので、「韓国経済がやがて行き詰まり、頭を下げてくる」と、いわば眼中にないのだ。
「『米国が支えてくれる』と日本は考え、『中国はこちらに立つ』と韓国は信じる。だが本当にそうか。リスクヘッジ(危険の分散)のために歩み寄りの一歩を踏み出す必要はないのか」と同誌は結ぶ。そろそろ、そうした機運も漂い始めた。
◆「右傾化」認識に偏り
そもそも、日本がいま「右傾化」しているのかどうか。国軍を持つ「普通の国」になろうとすることが右傾化というなら、いままで日本は相当左の端に立っていたことになる。その現状認識こそ、同誌の「誤算」というべきか。
(岩崎 哲)