牧師らが昼夜の監禁説得
被害者の体験と目撃現場(5)
山田舞さんが監禁された東京・JR西荻窪駅近くのマンションに、早速、脱会強要のための組織「ナルド会」を中心的に担う小岩裕一牧師と元信者の黛藤夫氏が姿を見せた。小岩牧師は昼間やって来た。「原理講論(世界基督教統一神霊協会の教本)の中の聖書の引用の仕方はまったくの間違いだ」「原理講論の中の聖句は文鮮明が意識的に方向付けている。聖書の中の都合のいい所からしかピックアップしていない。引用文の主語、述語さえ間違っていて聖書の文脈の前後関係を無視している」と話し、聖書の語句について彼なりの解釈を押し付けてきた。
舞さんは「このようなマンションに閉じ込めて話をするというのは洗脳行為だ。きちんとした場所で話をするよう家族に言ってほしい」と求めた。小岩牧師は「舞ちゃんがちゃんと話を聞いてくれるなら、私はどこで話してもかまいません」とかわし、両親はその申し出を拒否した。監禁はそのまま続けられた。
元信者の黛氏らは夜間に訪ねてきて、以前に説得を受けた脱会屋の宮村峻氏が口にする教会批判の片言隻句を、自分なりに咀嚼した内容をぶつけてきた。1日2時間ぐらい、70日以上も訪ねてきただろうか。
それらを聞かされても、舞さんの信仰や信念が揺らぐことはなかった。彼らが来ていない時は、閉所ゆえの肉体的ストレスは言うまでもなく、心理的な閉塞感に押しつぶされないように読書で気をまぎらわした。親類の人たちは、6月末ぐらいまでにマンションを出ていった。
家族は、舞さんに「統一教会のことを教えてくれ」「原理のことを聞かせてくれ」と話しかけてきた。いったん本人が信じている教義や協会の出来事を吐き出させ、そのあと、逐一その信憑性をくつがえしていくことで、知的な側面でも混乱させようとする、「脱会説得」の常套手段だった。舞さんは、両親が小岩牧師らの指示でそう言っているだけで、本当に聞きたいと思っているわけではないことが分かっていた。
無理やり拉致監禁しておいて、どうかお前の話を聞かせてくれ、というのは、あるべき世界を逆転させた、とんでもない話だった。話したり説明する気にならなかったが、しつこく繰り返し言ってきた。
そこで、舞さんは一計を案じ「私の宿舎に原理講論やノートがあるから送ってくれるようにしてほしい」と言ってみた。外部と連絡がつき、逃げる端緒にならないとも限らない。あわよくば学舎の同僚たちに居場所が分かって、助けに来てくれるのではないかと思ったからだ。
両親は知り合いに頼み、しばらくして荷造りされた本類も郵送されてきたが、動静に変化はなかった。
拉致監禁中、自殺を考えるほどのぎりぎりの緊迫感はなかったが、本を読んでいても、この先のことは全く見えてこなかった。2、3カ月が過ぎてからは、部屋でずっと横になっている他なかった。
(「宗教の自由」取材班)