3国境越えて海水浴


地球だより

 トルコのイスタンブールから国際列車に乗り、ブルガリアに向かった。

 乗り合わせたトルコ青年の旅行目的を聞いた。

 「クロアチアで泳ぐのさ」

 なんのてらいもなく彼は答えた。

 「トルコには島もあるし、黒海もエーゲ海も泳ぐには十分だろう」と言ってみた。

 すると彼は手を振って「とんでもない。クロアチアのアドリア海のビーチは特別なのだ」と言い返す。

 そうはいっても、クロアチアのビーチまでは、ブルガリアだけでなくセルビアと二つの国を横断しないといけない。距離にして1200キロ。国境を越えるごとに列車を乗り継ぎ、うまくつながっても2泊3日の旅だ。

 手にしているのは、小さなバッグ一つだけ。中には無論、海水パンツとタオルが入っているが、ダイビングするとかではなく、本当にただ泳ぐだけだ。

 一っ風呂浴びに国境を三つも超えるような、酔狂といえば酔狂だが、経費は意外と安い。

 というのも彼が手にしてる乗車券は、バルカン諸国の鉄道乗り放題のバルカンレイルパスだからだ。一番安いバルカンレイルパスは100ユーロ(約1万3000円)もしない。

 その時には気が付かなかったが、彼の目的は海ではなく、海に至る鉄道なのかもしれない。トルコには高速鉄道が走っているが、時速20キロ程度の遅い鉄道も健在で、トルコ人乗り鉄たちを集めている。

(T)