スコピエでの菜園談義


地球だより

 マケドニアの首都スコピエに住むビジネスマンと雑談した折、趣味の一致で盛り上がった。どちらも菜園を楽しんでいる。
 とりわけ共感したのは、野菜作りの醍醐味が、その匂いと味にあることだ。

 匂いというのは、野菜の発する鮮烈な香りだ。キュウリにしろトマトにしろ、スーパーで売られているトマトやキュウリは無臭に近いが、畑で取れたものは濃厚な香りがある。とりわけ早朝、トマト畑を歩くとその香りにうっとりするほどだ。アロマセラピー以上に朝一番、トマトの枝葉が発する香りはリフレッシュさせる効果が高い。

 何より畑で取れるトマトの味が全然違う。

 彼は「スーパーのトマトは、プラスチックだ」とも言った。なるほど、「プラスチック・トマト」とは的確な表現で、よく言ったものだ。

 スーパーで売られているトマトは色も形も悪くないのだが、味も香りも薄くて、ただのプラスチックを噛(か)むような感触があるのは否めない。

 「ところで」と彼は前置きして、「土地代のバカ高さで有名な東京で畑を持っているのか」と聞いてきた。「そうだ。東京の大地主だ」と答え、少し間を置いて「10平方メートル」と本当のことを言った。

 それがバカ受けし、彼は優越感に満ちた高笑いにしばらく興じた。彼が自宅の前に所持している畑は1200平方メートル。無論、トラクターがないと耕せないが、これが普通の家庭菜園の規模なのだという。

(T)