米のシリア攻撃注視する北
米コラムニスト マーク・ティーセン
中国へのメッセージも
米軍のシリア駐留継続を
トランプ大統領は昨年、シリアの空軍基地に59発の巡航ミサイル、トマホークを撃ち込んだ。アサド政権に化学兵器の使用は容認できないというメッセージを送るためだ。しかし、この攻撃にはそれ以外の目的もあった。オバマ政権時代の弱い米国は終わり、米国の敵国は、挑発に対して米国がためらいなく反撃することを考慮に入れなければならないと知らしめることだ。
1年がたち、アサド政権は、トランプ氏の警告を無視し、また化学兵器攻撃を行った。今回もトランプ氏の対応はシリア以外にも影響を及ぼすことになる。北朝鮮の金正恩氏とのいちかばちかの首脳会談を控えるトランプ氏は、シリアへの今後の対応を、シリア、イラン、ロシアだけでなく、北朝鮮がどう捉えるかに留意しなければならない。シリアへの攻撃は、独裁者アサド大統領を罰するためであると同時に、米国の都市を破壊可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を続ければ北朝鮮がどうなるかを金氏に示すものでなければならない。
アサド政権の化学兵器使用に対するトランプ氏の攻撃は限定的で相応なものだった。それでシリアの独裁者を抑制できると考えたからだ。キーン元陸軍参謀次長(退役大将)は、「たとえ前回よりも大規模なものであっても、再び限定的で相応の攻撃をしてはならない。それでは、アサドを止められない」と主張、「今すべきことは、…このような兵器を運搬できるすべての能力を破壊することだ」と訴えていた。アサド政権のすべての回転翼機、固定翼機を破壊し、すべての飛行場、飛行場の航空燃料、メンテナンス機器、航空機用の兵器を破壊すべきであり、「化学兵器攻撃ができる火器があるなら、その火器も破壊すべきだ」と訴えた。
◇北への無言の警告
要するに、規模は大きくても、「鼻血」攻撃の繰り返しでは不十分ということだ。アサド政権の大量破壊能力を奪う大規模な作戦でなければならない。そうすれば、アサド政権は、化学兵器で大量殺戮(さつりく)はできなくなる。同様に重要なことがある。金氏に無言の警告を送ることにもなる。核・ミサイルの開発と実験に固執して、米国を脅かし続ければ、どうなるかを示すことができる。
グラハム上院議員(共和、サウスカロライナ州)は、「斬首」作戦でアサド氏を排除することも検討すべきだと述べた。「アサドとその取り巻きは、戦争犯罪人、正当な軍事攻撃の標的と見なすべきだ。排除する機会があれば、実行すべきだ」と主張した。
グラハム氏が、アサド氏と取り巻きは正当な標的だというのは確かに正しい。しかし、トランプ氏はそのような攻撃をすべきではない。少なくとも今はだめだ。それよりも、アサド氏に、報復すれば、指導部を直接、攻撃する権利が米国にはあると警告すべきだ。なぜか。トランプ氏は金氏に、北朝鮮の大量破壊兵器に同様の軍事作戦を実施しても、必ずしも体制は破壊しないと示すことを望んでいるからだ。だが、金氏が報復しない限りだ。
◇断固とした行動を
トランプ氏は、シリアで断固とした行動を取ることで、北朝鮮だけでなく、中国にも、攻撃の脅しは見せかけではないというメッセージを送ることができる。トランプ氏が昨年、アサド政権を攻撃した時、中国の習近平国家主席はトランプ氏と一緒に別荘のマールアラーゴにいた。習氏は、北朝鮮への経済的圧力を強化することで応えた。大規模な作戦でアサド政権の大量破壊兵器を製造する能力を奪えば、北朝鮮に対しても同様の行動を取ると中国に警告することができる。習氏に北朝鮮の非核化へ圧力を強化させる誘因となる。
トランプ氏は、シリアからの米軍撤収を求めるのもやめる必要がある。撤収すれば、アサド政権に残虐な殺戮を許すことになるばかりか、北朝鮮に、米国は徹底した軍事行動を取る意思のないことを示すことになる。シリアの米兵2000人を撤収させれば、金氏は、米国には、シリアよりもさらに困難な北朝鮮への軍事介入を実行する意思はほぼないと考えるはずだ。
トランプ氏は、大量破壊兵器で無辜(むこ)の男女、子供を殺害する能力をシリアから奪うことができる。同時に、首脳会談の前に、軍事行動の威嚇は見せかけではないことを北朝鮮に示すこともできる。
会談の成否は、トランプ氏が軍事行動を取ることを真剣に考えていると金氏に思わせられるかどうかに懸かっている。金氏が、トランプ氏がシリアで何をするかを注意深く見守っているのはそのためだ。
(4月13日)